最終話 受け継がれる夢
そしてさらに7年の時間が経った。
つまり、魔界の穴が閉じられて13年後。
「練兵の迷宮、か」
41才の俺は、王都武道場で瓦版の記事を読みながら、独りごちた。
かつて魔界の穴と呼ばれた場所に、来年再び魔物が出現する地下迷宮が出現する。
ただし。
かつてのような放置できず、かつ殺意に満ちた迷宮では無く。
廊下に魔物が出現せず。
(外部から侵入した追剥集団が出るときはあるだろうが)
全滅しても、事前に魔術的契約をしておけば、パーティーメンバー全員に帰還の魔法が掛かり、地上のホームポイントという場所に死体が投げ出される。
そして宝箱の罠にテレポーターが無い。
こんな、愛に溢れた至れり尽くせりの迷宮。
これに対し、古参の魔界の穴攻略経験者(引退済み)たちは
「こんなのダンジョンか?」
「俺たちが一体どれだけ苦労してダンジョン攻略をだなぁ……」
「全く最近の若いもんはなっとらん!」
口々に非難しつつ、内心マウントをとるために、魔界の穴がいかに厳しかったか主張している。
そして現役組としては、そんな引退勢の戯言なんてどうでもいいので、概ね好意的に受け止められているようだ。
「ねぇお父さん」
俺がそんなニュースの瓦版を読んでいると、後ろから木刀の素振り1000回を終えた12才の息子のタケルが声を掛けて来た。
息子のタケルは……細い目と黒い髪以外はほぼパーツが嫁のリンで出来ていて。
見た目はかなり悪くないハーフエルフ男子だった。
髪の毛は掴まれるのを防ぎたいからと言い、短めにしている。
「素振り終わったよ。仕合形式の稽古したいんだけど」
「その前に座禅だ。魔力魔法の実力を、第6位階くらいまで伸ばすのが理想なんだからな」
俺は瓦版を折りたたみながら、座禅のために自分の木刀を手に取る。
この王都武道場、貸し道場なのに。
広さ、設計、申し分ない。
タケルに稽古をつけるときは、いつも利用させて貰ってる。
結局、タケルは自発的に「侍になりたい」と言い出した。
ああでも……嫁さんが小さいときからこの子に「阿修羅に触りたいなら、お父さんの跡を継ぎなさい」って言い続けていたせいもあるかもしれないな。
まあ、俺は嬉しいんだけどさ。
何せ、タケルは俺を確実に超えるからな。
自分の子供が自分以上のものになるというのは喜び以上の何物でも無いわ。
リンありがとうとしか言えないね。
俺は魔力魔法第5位階が限界だったのに。
タケルは第7位階をおそらく狙える。
それぐらいの魔法の才がある。
剣の腕の方も、すでに鉄斬が出来るんだよな。
で、おそらく後2年くらいで免許皆伝だ。
そのときに……俺はこの阿修羅をコイツに譲ろうと思ってる。
俺がこの剣を受け継いだとき、嬉しかったけど。
親父は多分俺以上に嬉しかったに違いない。
それを今、身を持って理解していた。
「えっと……もうすぐあの伝説のダンジョンがこの国で復活するの?」
そんなことをひとり、ボケっと考えていたら。
俺の息子は座禅の準備もしないで、俺が放置していた瓦版の記事を眺めていた。
「座禅をやれ。そんなのは後でも読める」
修行はしっかりするものだ。
だからそう一喝する。
しかし
「将来僕はここに潜るよ! お父さんに免許皆伝貰って、独り立ちしたら」
座禅の準備もしないで、息子は夢を語った。
こんな夢を。熱っぽく。
「そして……絶対にお母さんのために無双正宗を手に入れてやるんだ!」
(了)
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