第91話 近況報告ともうひとつ

 さらに1年経った。

 3人目は嫁さん待望の女の子で。

 名前はエルフィル。


 金髪の子で、瞳の色が嫁さんと同じ緑色。

 まあ、絶対に将来美人になるな。


 長女だから、嫁さんの痕跡を残したかったんだけど。

 すでに次男でリントって名前をつけているので。


 ……名前がややこしくなるので、典型的エルフの女性の名前を調べ上げ、そこから2人で候補を絞って付けた。


「エルフィルに妹を作ってあげたいから、まだまだ頑張ってね、あなた」


 そんなことを微笑みながら言う嫁さん。

 まあ、俺の方も出産を重ねる度に、嫁さんとの一体感……嫌な言い方すると支配の実感を覚えて、より好きになってきているので。

 嫌では全く無いんだが。




「3人目が生まれたんですよ」


「おお、すごいですね。賑やかでしょう?」


「育児がさすがにキツイですけど、そうですね」


 そんな会話を、日中の王城の廊下で仕事の合間、同僚の先輩としていたら。


「タケミさん」


 久々に、エリオスが俺に話し掛けて来た。

 宮廷魔術師になって以降、なんだか疎遠になりつつあり。

 少し寂しい気分を味わっていたんだけど。


 ……職場、ほぼ一緒だから。

 顔を見ようと思えばいつでも出来たんだけどな。


 でもなんかいつも忙しそうでさ。

 声を掛けるのを躊躇っていたら、段々……


 そんな彼が


「久々だがエリオス、何だ?」


 ……俺に何の用なんだろうか?

 そう思い、訊ねると


「ちょっと良いですか?」


 手招きされて、呼ばれた……




「エンジュとおやっさんが戻って来る?」


「ええ。手紙が来まして。……タケミにも伝えておいて欲しいと」


 廊下の隅で、俺は最初の仲間と話した。


 エンジュとおやっさんが数日内に王都に戻って来るらしい。

 で、どうも会いたいそうな。


「タマミには?」


「彼女はどこに居るか分からないんですよ。諜報部は秘密が多いので」


 そう、腕を組んで残念そうに言う。

 ……さよか。




「エンジュさんとダラクさんが王都に帰って来る?」


 その日の夕食。自宅のテーブルで。

 リントに離乳食を食べさせながら、嫁さんが驚きの声をあげる。


「そう。……どうする?」


 会いたい?

 そういう思いを込めて訊くと。


「うーん……積もる話は無いんだよね。数日間しか一緒に居なかった人たちだし」


 そう、人差し指を頬に当てて正直な気持ちを口にする。

 嫌いじゃ無いよ? って付け加えてはくれたけど。


「だからまぁ、行ってらっしゃい。次の休みだよね?」


 私はこの子たちと留守番してるから。

 3人の子供たちを撫でながら、笑顔でそう言ってくれた。


 じゃあまぁ……そうするよ。




「久しぶりやなぁ」


「6年ぶりじゃの」


 エンジュたちの王都の自宅に出向き。

 俺たちは6年ぶりに顔を合わせた。


 エンジュ。


 おやっさん。


 俺。


 エリオス。


「そうだな。6年の間に、子供が3人生まれたよ」


「僕もまあ、楽しくやってますよ。毎日」


 テーブルは使わず、毛の長い絨毯の上に腰を下ろし。

 そこで大皿に乗せた油で揚げた豆だとか、芋虫の料理を摘まみ、お茶を飲みながら話す。


 ……美味いな。芋虫の素揚げ。

 食いながら


「エンジュたちはどこまで行ったんだ?」


 旅の成果について話題に上げると


「サウザントの暗黒都市ドレワールにまで行って来たわ」


「ほほぉ」


 笑顔で、外国にある犯罪者の天国と噂される、暗黒都市に行って来たと語るエンジュ。

 めっちゃくちゃ遠くまで行ったんだなあ……。


「あそこ、ほぼ無法だから何でもありでな。面白い資料を何点か見つけたんやけど、買っていいものかどうか迷ったわ」


 えげつい犯罪の結果、故買屋に並んで流通したアイテムかもしれないんだし。

 まあ、気持ちは分かる。


 油揚げの豆を齧りながらエンジュの話を聞く。


 で話の中で、こんな話が出た。


「泥棒横丁っていう、盗品市があるんやが……そこでちょっとだけ、無双正宗はないかなと探したわ」


 と、そこまで言ってから


 ハッとして


「スマン」


 ……彼女に謝られた。


 いやもう、別にさ……


「別に何も今更後悔してないんだから謝らんでも……」


 すると、そのとき。


「そのことなんですけど」


 突如、エリオスが。

 面白そうな薄笑いを浮かべつつ


「……諦めなくても良くなるかもしれませんよ?」


 いきなりだ。

 いきなり、そんなことを言い出したんだ。


 俺たちの目が、点になった。


 ……どういうことだ?

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