第90話 そして5年後……
そして魔界の穴が閉じられてから5年が経過した。
俺たちがブラケルを倒した日は「国防記念日」となり、祝日になった。
その日は国を挙げて、新生魔王ブラケルを退け、国が守られたことを祝うのだ。
……正直、真相を知ってる俺は複雑な思いだったが、知らない一般国民が大喜びするのは当たり前だ。
ブラケルはいきなり国を裏切った挙句、魔王にまでなって襲って来た理解不能のモンスターなんだし。
知らない人にとってみれば。
俺は陛下の近くで近衛兵を続け。
必死で働いたのが功を奏したのか。
陛下の傍に控える、最強の近衛兵「親衛隊」に入隊させて貰えるに至った。
そのせいで、分かったんだが。
……国王陛下、国防記念日にこっそりブラケルの追悼をしてんだよね。
一般には言わないんだけどさ。
この辺を知って、俺はもう一生親衛隊で働きたいなと。
そう思っている。
「ただいま」
「おかえりー」
家に帰ると。
茶色のワンピース姿の妻のリンと、4才になった息子のタケルが出迎えてくれた。
正確に言うと妻のリンと、黒髪のハーフエルフである長男のタケルと。
リンの腕の中で眠ってる、金髪のハーフエルフの次男のリント。
あと、今リンのおなかの中にいる3人目の子供に。
……あの日、迷宮でリンが飲んだ薬の影響で、リンは排卵が任意で出来ることと、1回排卵したら受精するまで卵子が死なない状態なので。
俺たちの場合、普通のエルフとヒュームの夫婦における重大問題「子供が出来にくい」の対象外になっている。
で、リンは2年連続で妊娠し、年子の子を産もうとしてる。
俺としては嬉しいけど……お金を払って「全快」の魔法を掛けて貰ってまで妊娠に拘らなくても……。
それに妻が2年連続で産休とって「休み過ぎ」のクレーム来そうになったら「私は救国の勇者様だぞ」マウントで乗り切ろうとするのは問題を感じないこともない。
まぁ、その産休の受益者である俺が、そこに問題を感じてはいけないのかもしれないけどね……。
「式典の護衛任務ご苦労様」
リンはニコニコ微笑みながら、俺の親衛隊の制服を着替える手伝いをしてくれる。
まあ、片手でしてるのでそんなに助けにはなってないんだけど。
「この式典は、通算4回目だけどさ、慣れないよやっぱり」
責任の重圧がね。
何回経験しても重さが消えないっていうか。
まあ、国の行事だしね。
で、制服を脱いでハンガーに掛け。
腰に下げていた愛刀の阿修羅を外す段になったとき。
「おとーさん」
息子のタケルが俺に近づいてきて。
「それ、貸して欲しい」
……そんなことを言い出す。
すごくキラキラした目で。
息子は可愛いけど、それとこれとは話は別。
「これは玩具じゃないからダメだ」
ここら辺はハッキリさせとかないと。
すると
「……持ちたかったら、あなたも侍になるのね」
そこに間髪入れないで。
妻のリンが援護射撃のつもりなのか、そんなことを言う。
うーん……。
俺は別に、タケルに絶対跡を継いで欲しいとは思ってないんで。
そういうの、要らんのだけど。
なんかリン、タケルに俺の跡を継がせたがってるんだよな。
空気でどうも、そんな気がするんだ。
で、息子が阿修羅を触ろうとすると「それを触る資格があるのは、お父様の跡を継いだ者だけよ」みたいな叱り方するんだよ。
叱り方に問題あるんじゃないのかとちょっとだけ思うんだけど。
リンが俺のことを想ってくれてるからこその言葉だから。
……放置するしかないというか。
これで将来「子育てに失敗した」って泣きたくないな。
マジで。
俺の愛刀の阿修羅。
魔界の穴で、一時期無双正宗にその座を追われていた、俺の親父の代からの愛刀。
無双正宗が失われたので、また俺の愛刀の地位に返り咲いた。
だがここ数年、訓練しかしていない状況なので、この刀が正しく使われる場面はほぼ無い。
たまに、阿修羅にとっては辛い状況に追い込んでいるのかなと。
申し訳ない気分になることがたまにある。
……だからまあ、やっぱりタケルが俺の跡を継いでくれるのなら、大喜びで息子の手に託せるってのはある。
託すなら、そりゃ我が子の方がいいさ。
だけど……息子には息子の人生があるんだよな。
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