第89話 それぞれの道
「そんなことをすると、タケミさんの奥さんが困りますね。だから保留することにしたんです」
謁見が終わり、玉座の間を退出した後。
控室で俺は、エリオスにその真意を訊ねたんだ。
するとエリオスは2つ理由がある、と言って。
その1つが……
俺の築く家庭に、水を差すようなことになるかもしれないから、とりあえず保留。
そう決めたと言って来た。
……つまりだ。
俺の家庭が崩壊したら、そのときはエリオスが豹変すると?
……リンとの愛が陰らない様に気を付けないとイカンのだなぁ。
俺はそこを思い知らされ、責任を感じる。
「で、あと1つは……」
ブラケルを消した責任を、僕が宮廷魔術師になることでいくらか埋め合わせられないかなと。
まあ、自己満足ですね。
とのこと。
……なるほど。
才能をひとつ、この世から永遠に消したことの埋め合わせ。
ブラケルは憎悪に囚われて、その素晴らしい才能を全く意味の無いものにした。
それなのに、そのブラケルを消滅させた自分も、同じように才能を眠らせるのはどうなんだ?
そんな心境になったんだとか。
……まあ、そっちの方がこの国のためには良いよな。
頑張ってくれ……
そして。
俺は近衛兵になった。
陛下の仰った通り、最初から陛下周辺に控える最高位の近衛兵。
隊長なんかでは無いんだけど、約束通り好待遇だ。
ミナとタマミも同僚。
ミナは……なんか浮いてたな。
まぁしょうがないけど。
だって「暗黒騎士」「性騎士」とか呼ばれて叩かれてたわけだし。
実力だけは評価されてるんだけど。
仕事の態度だけは非常に真面目だったしな。
でもなんか、非番のときに。
花街でその姿を見たとかなんとか。
そんな話を小耳に挟んだ。
あと……勘当されたとかも。
……その真偽については確かめて無いんだけど。
プライベートだしな。
でも……アイツが黒パーティーのメンバーの5人……名前はよく覚えて無いんだけどさ。
彼らの供養を、定期的にしていることだけは知ってる。
タマミはまあ、最初は身の軽さとボウガンの腕を高く評価されて仕事を与えられていたんだけど。
しばらくして、部署移動的なものがあり。
近衛兵の諜報機関に異動させられた……
本人的には「こっちの方が性に合ってる気がする。ドキドキするよ」なんて言ってたから、まあ幸せなんだろう。
リンは王都の神殿付きの神官にさせてもらった。
それも神殿の最高位である大神官の護衛係ということで、採用された。
「それなりにお給料貰えるし、神官の修行も積めるから最高の職場かな」
リンは嬉しそうだった。
そしてお互いに新しい仕事が安定して来たとき。
俺たちは結婚した。
結婚式は……なんと大神官様が執り行ってくれた。
リンの新しい職場の恩恵だ。
会場は神殿の一室。
破格の対応だ。
花嫁姿のリンは、最高に綺麗だった。
白無垢というやつで、忍者が生まれた土地の伝統衣装。
スラリとした体躯のリンには良く似合っていた。
「いやータケミ、おめでとう」
「タケミ、良かったな」
エンジュとおやっさんも参列してくれて。
俺たちを祝福してくれた。
「今日はありがとう。エンジュ、おやっさん」
俺は礼を言い、リンも「ありがとう!」と元気よく応えていた。
「これからアンタは一生家族のために生きることになるんやろうな。大変やで」
エンジュはそう言って笑う。
ノームは子供が成人したらそこで夫婦関係終わりだもんな。
文化の違い……
おやっさんたちドワーフは、さすがにそこまで酷くは無いんだけど……
義務を終えたら坑道を飛び出すとか。
そんなヒュームではそうそうないことをやってしまえる文化圏だしな。
で……
「明日からしばらく王都離れて、別のところで仕事を探す旅をするわ。ウチら」
「……だいぶ長く組んでおったから、寂しくなるが仕方ない。タケミ、近衛兵で出世するんじゃぞ。……それがヒュームの理想的な生き方なのよな?」
別離。
かれこれ、2年くらいかなぁ?
組んで仕事したのは。
だいぶ長く一緒にいたよ。本当に。
色々あったけど……
「楽しかったよ。最高のパーティーだったと思う」
そう、花婿衣装の俺は。
明日旅に出てしまう最高の仲間に、これまでの礼を込めて。
そんな言葉を贈った。
……そうそう。
大方の予想通りだったんだけど。
リンはやっぱり、俺の子供を無事に身籠っていて。
迷宮内部ではまだ着床してなかったけど、出た後しばらく後に、リンはいきなりつわりで吐いた。
リンが真っ青になってトイレに駆け込んだとき「とうとうきた!」と内心思って、ものすごく幸せになり……あと、興奮した。
当然、そのときは背中を摩るなり、して欲しいことは無いかと確認したりで介抱したけどさ。
……正直、リンとの間に子供が出来たことに。
大喜びしそうになるのを抑えるのに苦労した。
苦しんでるリンを他所に、ひとりで大喜びしてたら愛想つかされるかもしれないし。
……そして時間が経ち。
産まれた俺たちの最初の子供は男の子だった。
まあ、あの3日間メチャクチャしたしなぁ。俺たち。
そして、俺たちの子供の名前は2人で相談し……タケルにした。
「次の子は女の子が欲しいけど……なんかまた男の子のような気がするなぁ」
産後、すやすや眠っている俺たちの、ハーフエルフである息子を抱きながら。
何か困ったような表情で、リンはそう愚痴るように呟いた。
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