第6話 休眠か、解散か

「属性石が……黒く染まって……!」


 エリオスが、信じられないという声でそう呟くように言った。


 ……この女……属性反転したのか……!


 俺は驚愕と共にそれを見つめた。


 属性反転の実例を見るの、これがはじめてだったんだ。


 まさか、あのクソ真面目なミナが属性反転するなんて……!


 驚く俺たちを他所に、彼女は続けた。


「こうなってしまったら、白属性の皆さんとは一緒には居られないんです。仕方ないことなんです。許して下さい」


 そう言って、深々と頭を下げる。


 エリオスはそんな彼女に


「待って! 僕がキミを元に……」


 そう、言いかけたときだった。


「おーいミナちゃーん!」


「話終わったー?」


 ……ヒュームの男が2人、寄って来た。


 1人は金髪で色黒の優男。背は高め。

 ローブを着てて、杖を持ってるから魔術師だと思う。


 そしてもう1人は、角刈りの黒サングラスの男。

 緑色の法衣を着てる。腰にメイスを下げていて、見た感じ……多分神官。


「あ、皆さん。お待たせして申し訳ないです」


 ミナはそんな彼らに恥じらいを含んだ笑みを向けた。


 で、手で示しながらこう言った。


「紹介します。……今日から私のパーティメンバーになる、チャラオウさんとマオートコさんです」


 ……よく見ると、こいつらの属性石。

 2人とも黒だな……なるほど。


 そう思う俺たちを他所に。

 彼らは勝手に挨拶をはじめる。


「チーッス。ミナちゃんとは仲良くやっていきまーす」


 ニヤニヤ笑う金髪のこっちが多分チャラオウで


「安心して欲しい。必ずミナを俺たちで幸せにするから」


 そしてサングラスのこっちがマオートコ。


 ……なるほど。


 2人はよほどミナと親密なのか。

 肩を抱いたり、腰に手を回したりしている。


「ミナ……どうして……!」


 そう、エリオスが震えながら声を洩らして、心の言葉を吐き出すと


 ミナは……こう言ったんだ。


「オ●ンチ●は、1本より2本の方が良いと思いませんか?」


 恥ずかしそうに。


 それが決定打になった。


「うぷっ……!」


 エリオスは……ショックのあまり席を立ち上がり。

 酒場のトイレに一直線に駆け込んでいった。


 ……吐いちゃうほどショックか。

 可哀想に。


「あらあら」


 ミナは少し気の毒そうな目を、トイレに駆け込むエリオスに向けた。


「んじゃ、俺たちはこれで」


「魔王の首は俺たちが取るんでヨロシク」


 ミナにベタベタしながら。

 3人は俺たちのパーティから去っていく。


 ……うん。スゲーヒデーな。

 ありえんわ。


 法には触れんけどさ。

 自由恋愛の話だし。


 しかし……


「……あの坊主、もう立ち直れんかもしれんな」


 そう、パーティメンバーのドワーフ。

 戦士のダラクデルグが言う。


 ドワーフ。

 岩妖精と呼ばれた時代もある、人間種族のひとつ。

 種族的特徴は……ヒュームと比較して低めの身長と、筋肉達磨の肉体と、顔の下半分を覆うような髭。


 特に髭が特徴。

 なんと男女両方生える。

 そのせいで、彼らが良く分からなかった時代では、ドワーフには女がおらず、岩から勝手に生まれてくるって思われていた時代もあったらしい。


 その性格は卑怯な行いを嫌う、正直な職人気質。

 だから求道者的な者が多いんだ。


 彼もその例に洩れず、両手斧での戦闘に人生を掛けてて。

 侍であれば上級職になれるのに


「侍は両手斧を扱うことが許されんからの」


 といい、戦士の職業に留まっている。


 そして彼らもエルフほどではないものの、ヒュームよりは長命の種族。

 ダラグデルグ……俺はおやっさんって呼んでるんだが、彼の場合は200才。

 俺の数倍長く生きてる人生の大先輩ってわけだ。


「あんな酷いフラれ方をしたら、ワシだってどうなるか分からん」


 そう、自分の髪の色と同じ赤い色の髭を弄りながら。

 苦虫を噛み潰した顔でそう言った。


「え、それは困る!」


 そんなおやっさんの言葉に反応したのは、女ケットシーのタマミ。

 黒いレザー製の、露出の多いミニスカ衣装に身を包んだ彼女は、猫の特徴を持ったヒュームと表現するのが最も適当な人間種族。

 顔は人間そのものだけど、瞳孔が縦に長く。

 耳が頭の真横じゃ無くて、上についてる。猫そっくりの耳が。

 あと、尻尾も生えている。無論ねこしっぽだ。


 彼女は茶ネコ獣人って感じの容姿。

 耳も、尻尾も、ボブカットの髪も茶色。

 一緒に居ると和むキャラだ。


 彼女の年齢は16才。

 ケットシーはヒュームとほぼ同じ寿命の種族なので、ここはヒュームと同列に語っていいと思う。


 そして、彼女の職業は盗賊で、盗賊は属性が灰色か黒でないと就けないんだけど。

 彼女は灰色。このパーティに居ることに、何の問題も無い属性だ。


 ……というより。

 今、この場にいるパーティメンバーで、属性が灰色でないの俺だけなんだよな。


「エリオスまで抜けたら、このパーティヒーラー居ないじゃん!」


「そんなんでウチらパーティ、最下層に潜るのは無理やん!」


 タマミの言葉に、ローブ姿のノーム女のエンジュが応じた。


 彼女の職業は学者。

 魔物の識別や解説、病気や怪我の診察、薬の調合、宝物の鑑定など、知識面でパーティをサポートする役目。


 魔術師や司祭も知識面では凄まじいところがあるから、一部代用はできるんだが。

 冒険者という意味で、知識の面のエキスパートは彼女の職業である学者なんだよ。


「最下層に潜れないと稼ぎが一気に減る!」


「そんなん困るわ! なんとかならんの!?」


 ……うん。とても洒落にならない事態なんだけど。

 ノームの彼女が騒いでも、イマイチ悲壮感が無いんよな。


 ノームって、成人してもヒュームの大きい子供にしか見えん種族なのよ。

 10~12才くらい?


 だから、茶色のくせ毛の眼鏡の女児がギャーギャー言ってるようにしか見えん。

 ……彼女、60才なんだけどな。


「……騒ぐな。騒いでもどうしようもないわい」


 おやっさんが騒いでいる女2人にそう言い放った。

 ……事態の深刻さは充分に理解した顔で。


 そして


「……あの2人の代替要員が見つかるまで、このパーティは休眠させるか、それともいっそ潔く解散するしか無いのう。……どうする?」


 そう、重苦しい声で。

 俺たちの意思確認をしてきたんだ……。

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