第63話 ジュピターブレード

 スルト……

 ジュピターが生前に倒したことがある邪神だよな。

 さっきの仕合で、俺はそれを彼に聞いたんだ。


 自分が倒したって。


 それはつまり、倒す方法があるってことだ。


 ゴオオオッ!


 吼え声。


 ……と、その前に。

 まだ、アジ・ダハーカの酸の首が残ってる。


 まあ、足が3本しか残っていない上に、首を2つ潰されたダメージで動きがだいぶ鈍くなってるが。


「ミナ!」


 俺は呼び掛けた。

 ミナがこっちを向く。


 俺は続ける。


「スルトの相手してくれ! あっちの方がどう考えてもマズい!」


「分かりましたわ!」


 彼女はアジ・ダハーカの相手をやめ、スルトに立ち向かっていく。


 ……4邪神ってやつは、この迷宮では部屋に壁抜けして入り込んでくるのか。

 道中会わなきゃ大丈夫なのかと思っていたら……


 厄介な奴らだ。


 俺はそう思い、阿修羅を八相に構えてアジ・ダハーカに立ち向かう。


 つもりでいたら


「タケミよ」


 ……おやっさんから言われたよ。


「ここはもう、ワシ1人で十分じゃ。相手は酸じゃからの」


 ……ああ。


 そういえばおやっさんは……


 煙幕の中で自在に戦えたり。

 刺激性植物の粉末玉にも耐えられるんだよな。


 ……任せても大丈夫か。


「分かったおやっさん。後は頼む」


 そして俺はこの場をおやっさんに任せ、スルトに立ち向かって行こうとした。

 そのとき


「タケミ!」


 ……リンに呼び止められた。


 振り向く。

 彼女は


「……勝機、あるんだよね?」


 訪ねてきた。すごく心配そうに。

 だから言ったよ。


 彼女を安心させるために。


「戦士ジュピターが1人で討ち取れた相手なんだ。だから俺とミナでやれると思う」


 そう言い残し。

 俺は火の邪神に向かって行った。




 相手は火の邪神。

 なので俺は阿修羅を吹雪の相に切り替えて立ち向かったんだが。


「……こいつ、実態が無いのか?」


 何度か斬り付けたのだけど……


 手ごたえがない。


 吹雪によるダメージはあるらしく、一応斬り付けると苦しむ様子は見せるのだけど、それだけだ。


「タケミさん、こちらも効果無しですわ」


 焦った様子のミナの言葉。

 ミナのヴァルキリーソードも効果が無い。


 これはどういうことなんだ……?


 オオオオオッ!


 言葉を発しない火の邪神は、俺たちのそんな焦りをどう思っているのだろうか。

 燃え盛る炎の剣で、薙ぎ払いを掛けた。


 薙ぎ払われた剣に付随して、猛炎が吹き付けてくる。


 ミナは盾で。

 そして俺はそれを間合いを離して躱した。


 ……オイ、どうする?


 ミナを見る。

 ミナは盾を構えながら


「身体のどこかに核があるのかもしれません」


 その言葉に


 ……なるほど。

 多少納得した俺は即座に詠唱を開始した。


「ダートルド ギバール オンローバー!」


「マハール デンジ ロルン ハースニ!」


 そしてミナも法力魔法の詠唱を行う。


 俺が使ったのは「氷嵐」


 ミナが使ったのが「真空刃」


 火の邪神を、吹雪の嵐と真空の刃の嵐が襲う。


 ……どうだ!?


 だが。


 スルトは多少ダメージを受けた様子は見せたが、それだけだったのだ。


 ……あまり効いてないな。


 ジュピターはどうやってこいつを倒したんだ?

 ……剣が特殊だったのか?


 そりゃさ。

 魔剣持ちは持っている魔剣も剣士の腕前の延長であると考えるのは普通だけど。

 ほぼほぼ100%魔剣の性能で勝利した場合は、やはり多少は遠慮が出る。

 そのはずだ。


 それなのに……あんなに自慢げに言うか?


 死闘を尽くして勝利した相手だけに、俺の気持ちに複雑なものが混じる。


 でも……それ以外考えにくい気がするし……


 ギリギリの敵を相手しているにも関わらず。

 俺は思い悩んだ。


 そのときだった。


「ヤアアアアアッ!」


 ミナが突進を掛けた。

 盾を捨てて。


 ……その手に、両手持ちの大剣を下段に構えながら。


 その剣は青い炎を吹き出しており、その両刃の刀身に、魔術文字が刻まれていた。

 刻まれた魔術文字が、青白い光を放っている。


 オオオオ!


 スルトは炎の大剣を振るって、ミナに炎を浴びせる。

 だがミナは、その炎について全く意に介していない。


 そのまま間合いに飛び込み、大きく振りかぶり、上段からの斬撃でスルトを一刀両断する。


 その瞬間


 ギャアアアアアア!!


 つんざくような悲鳴をあげ、スルトが炎のようなあっけなさで、この世から消滅していった。


 ……何なんだ?

 あの剣……?


 どこから湧いて……


 そう思ったとき。


「あれはジュピターブレード……」


 いつの間にか、リンが俺の傍に立っていて。

 囁く声で教えてくれたよ。


「この部屋の宝箱に入ってたの」


 え……?

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