第3話 白属性/黒属性
「ちまちま分裂させてたら、効率悪いなと思ってて、数を増やしたらついうっかり制御不能になっちゃって」
俺に抱きつきながら、身体を密着させてくる。
……普通、エルフってぺったんなんだよね。美形だけど。
んでも、リンはさ、ヒュームに混じって暮らしていたエルフの出だからか、その。
胸に、押し付けられるだけの豊かなものがあるわけよ。
食べてきたもののせいがあるのか。
……これでこいつが俺の恋人なら何の問題も無いんだけど。
そうじゃないからな。
距離感バグってやがるのな。
これだから黒属性の人間は。
黒属性って言うのは「感情を重視し、道徳に拘らずに生きるタイプ」の人間の性質のこと。
忍者って職業は、才能の他に、性質が黒属性でないと就くことが出来ない。
反対が白属性。そっちは「規律を重視し、ルールに従って生きるタイプ」の人間の性質。
無論、才能の他に白属性であることを要求される職業もある。
そういうの、目に見えないはずなのに、何故分かるんだ、って疑問あるかもしれんけど。
……リンのそれなりにご立派な胸の上に、首飾りが下がってて。
その首飾り。宝石が輝いている。
黒い宝石が。
……これ、属性石って言って。
冒険者と、役人は全員付けてる。
この宝石は、この世界を作った二柱の神様の力を受けてるんだな。
白属性を司る白神バルナと、黒属性を司る黒神インドラの。
……リンの属性石が真っ黒ってことは、インドラ率が限りなく100%に近いってことだ。
反対に俺の属性石はほぼ白。バルナ率の方が強めってことになる。だから俺は白属性。
普通の人は灰色なんだよな。
どっちかの色に偏ってる方が珍しいのよ。
……ああ、ちなみに。
黒神インドラは別に邪神ってわけじゃない。
ルールに囚われないで、大胆な行動を取れる神であることから、意欲的な商売人なんかが信仰してるし。
ルールを守らないから即悪ってわけじゃないもんな。
まあ、お役人になる人は、白だと喜ばれるって事実はあるんだけど。
もし属性石をぶら下げて、宝石が黒く染まったら才能あっても多分お役所はクビになるだろな。
……とまぁ、長くなったけど。
こいつは黒属性だけど、別に悪人ってわけじゃ無いんだ。
「ホント危なくて肝が冷えたから、助けて貰えて嬉しかった! ありがとう!」
言って、俺の頬にキスしようとしてくる。
彼女の額を押さえて俺は止めたけど。
こういうの放置すると、俺が平気で居られなくなるかもしれんし。
そう……あいつみたいに。
ちょっとだけ、思い出すのが辛い記憶を思い出しそうになり、俺は慌てて記憶を閉じた。
「別に組んでるんだから当たり前。礼は言葉だけで十分だから」
そう言って、仕事を先に進めることを促した。
そこを口にすると、少しだけ残念そうな顔で、俺から離れ、床に散らばった魔晶石を拾い。
道具袋に納めながら
「宝箱の透視をお願い」
言われた。
はいはい。
……この、高さ8メートル、広さ10メートル×10メートルくらいの広さの部屋の中央に。
金で縁取りされた、豪華な宝箱が存在していた。
魔界の穴の迷宮の部屋には、こういう宝箱が一定時間経つと出現し。
同時に、その宝箱を守る魔物たちが出現する。
……おそらく、宝箱が魔物を召喚するゲートになってるんだと思う。
で、問題の宝箱なんだけど……
大体、罠が掛かってる。
罠が無い宝箱はまず存在しない。
そして罠の解除は、一部を除いてほぼ全て、専門家が居ないと対処できない。
だから、宝箱を開くには専門家が必要なんだ。
その代表格は……盗賊。
あとは……忍者。
……だから、こいつがいないと宝箱を開けられないんだよな。
で……
「……私、罠を外すのはそれなりに得意なんだけどさ、罠の鑑定が苦手で~」
少し照れ臭そうに、リンは笑顔でそう口にする。
……前のパーティの盗賊役は両方得意だったけど、そんなこと言っても感じ悪いだけだしな。
それに俺はやってもらう側だから。文句言う資格ねーわ。
俺は言われた通り、宝箱の罠を見抜くために、魔力魔法第2位階の透視の魔法を使用する。
「ヌートリナ カルフ オント」
詠唱が終了すると同時に。
俺の目は透視能力を得る。
すると……
宝箱の内部構造が透けて見えてくる。
この魔法は、対象の見たいものを透視させてくれる魔法だ。
……ふむ。
見たところ、罠は……
んー、この宝箱……
魔法生物だな。
牙の様なものが見える。
じゃあ、ミミックか。
だったら……
俺は愛刀を右手に引っ提げて、つかつかつかと宝箱に近づく。
リンはそれで、何が見えたのか察したのか。
何も言わない。
で宝箱に跪き。
その蓋に手を当てた。
それと同時に
クワッ!
宝箱がひとりでに開き、その蓋が大顎に変化して噛みついてくる。
でも、俺はそれは知っていたので。
全く慌てず、作業の様な感じで、その口腔内部に愛刀阿修羅で突きを入れた。
……ミミックの弱点は口腔内部だから。
それだけで絶命する。
これだったら、俺でも簡単に解除できるんだけどな……
「手際良いよねタケミは。惚れ惚れしちゃう」
隣で見守っていたリンが俺の仕事を褒めてくれた。
まあ、悪い気はしないんで
「このくらいは慌てなければ誰でも出来るよ」
そう言って、うっかり。
彼女の方を見てしまった。
……重ねて言うが、この透視魔法は、対象の見たいものを透視させてくれる魔法だ。
なので、俺の深層心理に魔法が応えてくれて。
……リンの黒装束を透視してしまった。
まあ、大事には至らなかったんだけど。
……リンのやつ、胸と股を両手でガードしてやがったから。
読んでんじゃねーよ。
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