第4話 昔の仲間
「指輪がいっぱいある! きっとここに若さの指輪も混じってるよね!? それに刀もあった! タケミ、楽しみでしょ!?」
リンは大喜びだ。
死んでただの宝箱になったミミックから、中に収められていた宝物を取り出した。
中に入っていたのは……金塊が少しと、指輪が3つ。そして刀が1振り。あとは鎧。
……俺が断然興味あるのは刀だ。
このために、この迷宮に潜っているって言っても言い過ぎでは無いから。
でも、この刀が何であるのかは、鑑定して貰わないと分からない。
で、指輪だけど……多分、1つは若さの指輪が混じってるな。
勘だけどね。
若さの指輪は、上級貴族の御婦人方が1万や2万、平気で払って購入するんだよね。
単に指輪の力を解放すると、年齢をおおよそ1年若返らせるってだけの魔法効果があるだけのアイテムなのに。
……女性にとってはそれだけでも重要か。
で。
「今ので、俺の魔力魔法第2位階の使用回数がゼロになった」
大事な事だから言っておかないと。
それを聞いて、リンは店仕舞いだとばかりに
「ディルマ マハル バディ リビルド」
……俺に対して回復魔法を掛けてきた。
法力魔法の第1位階の魔法だけど。
……彼女、転職してるから、第1位階の魔法の使用回数たった5回しか無いんだよな。
本職なら普通に9回使えるのに。
だから貴重なのよ。
彼女の魔法を受けて、俺の身体は柔らかく発光し。
受けた細かい傷が全て治っていく。
……この魔法は、身体欠損や骨折以外のダメージは全て治す魔法なのよね。
非常にありがたい。
「さあ、稼ぐだけ稼げたから帰りましょうか」
そう言って、一杯になった背負い袋を背負いつつ、彼女は立ち上がる。
「そうだな。早く帰ろう。今日も疲れた」
……ここから歩きなんだよなぁ。
昔は転移の魔力魔法が使用できたアイツが仲間にいたからさ。
そんなことを、つい考えてしまう。
昔のことを振り返っても仕方ないのに。
そして。
……今回手に入れた刀……多分アレじゃないんだろうけど。
期待してしまうよな。
地上に出た。
迷宮の出入り口の傍に、毒消し効果のある泉が湧いている。
王国の側のサービスだ。
地上に出れば、毒で死ぬことは無い。
安心して毒攻撃を受けろとまでは言わないけど、せめてのもの希望。
……この魔界の穴が開いた当初は、中で毒を受け、地上に逃げて来たものの、街に戻るまでに毒が回って死ぬ事例が多発したそうで。
王国側が、魔術儀式を行って、出入り口に毒消し効果のある泉を湧かせたらしい。
水は自由に飲んでいい。
ただし。
毒消し効果は、ここで飲まないと発動しない。
これはそういう魔術の水なんだ。
ちなみに味は良くない。
多分、砂が混じってる。
毒は消えるかもしれないが……腹は下すかもしれん。
「じゃあ、これお願いね」
言って、リンが背負い袋を俺に渡す。
ここまで運ぶのは彼女の役目。
そしてこれを鑑定して換金するのは俺の役目。
……俺がその作業をしている間、彼女は着替えてくる。
そのまんまの姿だと、白と黒が交流持ってると思われて、あまり良く思われないんだよな。
……神様同士は別に対立してないんだけど。
人間の白属性と黒属性は、あまり仲が良いとは言えない。
白属性の人間は、黒属性を「平気でルールを破る、信用置けない奴ら」って思ってるし。
黒属性の人間は、白属性の人間を多分「ルール順守を唱えるばかりで、必要なときに臨機応変に動けない癖に煩い奴ら」って思ってるんだろうな。
まあ、だから。
そんな二者がそうと分かる形で一緒にいると、どっちかが属性を反転させたのかと思われ、注目を浴びて自分の属性集団の評判が下がる。
これは良くない。
……そう。
属性って、意識改革の結果、反転する場合があるんよな。
こういうのって、何故か白と黒の間でしか起きないんだけど。
白でも黒でもない灰色では、何故かほぼ起きないのに。
そんなことをつらつらと考えながら、先に帰っていく彼女を見送って。
遅れる形で俺は城壁の門を目指して歩き出す。
俺たちが生活する街……アシハラ王国の城下町に帰るため。
巨大な城壁だ。歴史を感じる重厚さ。
多分、1000年経っても、これはここにそのままあるんじゃないだろうか。
冒険者の店に来た。
数多くの冒険者が、各々のテーブルで飲んで騒いでいる。
ここで、俺の昔の仲間が毎日朝から晩まで思想書を読みふけっているんだ。
そいつが鑑定できるので、頼むんだけど。
……身だしなみを気にしておかないと。
あいつも白属性で、礼儀には厳しいからな。
多分、俺より白い。
なので
俺は姿見で自分の姿をチェックした。
まあ、あまり櫛を入れてないけど、長めの黒髪。
ちょっとボサついているのが気になるが、迷宮帰りだし、良いだろう。
それを後ろで括ってひとまとめにしてるんだけど、別に変じゃ無いよな?
目は少し細い。ガキの時分は寝てるのかと揶揄われたこともある。
髭は……伸ばしてないんだけど、ちょっと無精ひげを発見した。
剃った方が良いんだろうか?
で、赤色の侍甲冑。
お気に入りの逸品だ。
動きやすい上、急所をしっかりガードしてくれる。
兜はつけてない。
視界が狭まるからな。
……よし。
冒険者としてはみっともない姿ではない。
行くか。
酒場のテーブルを見回す。
すると、すぐ見つかった。
本を5冊くらい積み上げて、果汁を飲みながら読みふけってるブルーの法衣を着たヒュームの美形がいる。
筋肉質では無い、線の細い美形……いや、美少年。
柔らかい髪質の金髪で、やや巻き毛。それを適当な長さで整えてる。
年齢は16才なんだけど……こいつ、この年齢で司祭で、しかも魔力法力、全ての位階の魔法を習得してんだよね。
まあ、司祭という職業の完成形だわ。
名前はエリオス。
俺の昔のパーティで、魔法のエキスパートで、かつ鑑定役として大活躍していた男。
「やあ、エリオス。ちょっと良いか?」
「あ、タケミさん。今日も仕事して来たんですか?」
パタン、と本をしおりを挟んで閉じると。
「見せてください。鑑定します」
にこやかにそう言ってくれる。
「えーと、こんな感じですね」
テキパキと鑑定してくれた。
いつも思うが見事な手並み。
……彼さえ潰れなければ、あのパーティ、まだいけてたんかなぁ……?
そんなことを、彼の仕事を見守りながら考えた。
「若さの指輪が2つ、器用さの指輪が3つ、大典太、焔丸、そして魔力強化第3段階のロングソードとブレストアーマーね……」
今回も、あの刀は無かったな。
それを少し残念に思いつつ。
ありがとう。
礼を言って、鑑定のお礼として魔晶石を10個渡す。
……これはまあ、リンとは話し合ってるから、別に問題ない。
決して渡し過ぎでは無いんだ。
グレーターデーモンはかなり倒したからな。
まだあるのよ。魔晶石は。
「ありがとうございます。これでまた1か月はこの生活を続けられますよ」
ニッコリと、エリオス。
俺は
「……まだこの生活を続けるつもりなのか」
そう、思わず言ってしまう。
一瞬、失言してしまったと思ったけど。
彼は遠い目をしながら
「ええ……今は300年前の危機的状況と違いますしね。魔界の穴に潜る冒険者の立ち位置は」
そう言って、彼は語り出した……自分の思うところを。
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