第73話 錆の怪物と忍者
そのアルマジロとカマドウマが融合したような姿の魔物。
カマドウマそっくりの様子で触角を動かして、のそのそとこっちに歩いてくる。
……ナニコレ?
その数、4匹。
全然脅威に見えない。
でもまあ、エンジュが何て言うかだ。
俺はエンジュを見た。
……彼女は口元に手を当てて、何かブツブツ言っている。
この様子は……
何かあるのか?
感覚だけど……
具体的に何が、というのが出てこないが。
何か重大な何かだ。
それがなんとなく分かってる。
でも……
今の俺なら、やれるだろ?
無双正宗は、斬り掛かれるなら魔術だろうが法則だろうがそれごと斬れるんだろ?
だったら……いいよな?
そう判断し、俺は刀を八相に構えてアルマジロもどきに突撃していく。
そして間合いに入り刀を振り下ろし
……いや、振り下ろそうとしたとき。
バルログの視線が急に気になったんだ。
自分が用意したこの4体の魔物が、俺に何もできずに殺されようとしているのに。
まるでそちらを歓迎しているような……喜んでいるような……
なんだ……? すごく気になる……?
そのせいで、一瞬手が止まった。
だがそれが結果的に
「タケミ! そいつを斬るな!」
……俺の無双正宗を救うことになった。
「斬ったら最後、無双正宗が壊れてまう!」
……え?
危なかった。
俺の無双正宗の刃は、このアルマジロの頭の数センチ先にまで迫っていたから。
全力で寸止めし、飛び退る様にして間合いを離す。
……俺と親父の夢が壊れてしまう、だって……?
どういうことなんだ……?
俺はエンジュを見た。
彼女は……青ざめていた。
「スマンかった。あまりにも見いひん魔物やから、記憶から出てこおへんかったんや。……2000年近く前に、人間が本気で絶滅させた魔物やそいつ……文化財の破壊者やから、狩り尽くされたんや!」
……そんなことがあったのか。
でも、生態系の問題をガン無視で、わざと、いや本気で絶滅に掛かった魔物だって……?
どういう魔物なんだ……? 非常に厄介な病気でも持っているのか……?
色々考えた。
だけど……
続いたエンジュの言葉には、俺は絶句してしまった。
「そいつらの名前はラストモンスター。錆の怪物で、錆を食べて生きとる。……そしてそいつらは、金属であれば何でも錆びさせる能力を持っとる!」
……なんだって?
それは魔法の武器でもダメなのか!?
確か魔法の武器は、品質保持の魔法が基本的に掛かっているから、何があっても錆びたり腐食したり、削れたりしない。
そう、前に言わなかったか!?
だけど……
「ちなみに魔法の武器であっても同じやで! 斬ったら最後必ず壊れる! 無双正宗の斬撃みたいなもんやと思てくれ!」
……マジか……!
そんなのどうすればいいんだ……?
俺がそう、混乱していると。
「ホホホ……! 武具を1つ破壊できる寸前だったのに、惜しいことでした」
バルログは愉しそうに、そして少し悔しそうにそう評する。
そして……
バルログ4体は、その4体のラストモンスターを抱き上げて
「面白い特性を持つ魔物ですので、2000年前の人間による絶滅行動時に、数匹のラストモンスターの雌雄の個体を保護して、秘密の飼育所で繁殖させていたのですよ」
可愛いペットですよ。
そう、愉しそうに語る。
そして自分の足下にラストモンスターを下ろし。
左手の爪を構えて、バルログは
「……命令したら、この子たちはボクの傍を離れない様に調教しています」
そう、言い放つ。
厄介極まりないペットモンスター……
リンの金属糸をバルログに巻き付けるには、バルログに誰かが近接戦闘を仕掛けなくてはならない。
ならば……!
そこから来たアイディアだろう。
その辺、分かってたんだ。
こいつも……!
クソッ!
どうすれば良いんだ……!?
魔法攻撃か……?
しかし、おそらくそれはアイツも理解している。
その隙を、炎の剣や、炎の鞭で突かれるかも……
そう、色々考え、試行錯誤している。
そのときだった。
「ねぇ、エンジュ」
……リンが、エンジュを見ないで話し掛けはじめたんだ。
「ラストモンスターの錆化の能力は、死んでからも続くの?」
その質問に、エンジュは少し考えて。
「いや、それはおそらくあれへん。……現代に、決して武具を持ち込んではアカンという土地の話なんて聞いてへんからな。それはつまり、死んだら能力は途切れるいうこっちゃ」
即座に回答を出す。
すると
「なるほど……」
そう言って、リンは進みだした。
バルログたちに。
……何をする気だ……?
まさか……
十束剣は、10本のミスリル銀製金属糸で構成された武器。
そのうち4本を犠牲にする気なのか……?
4本消えても6本残るから……!
だが、それは
あとのバルログ戦での手が減り、致命的なマイナスに連なる行為かもしれないんだ。
それはダメだ……!
だから
「やめろ――」
リン、と言いかけたとき。
その前に、リンは踏み込んだ。
バルログたちに向かって。
バルログたちは一斉にファイアブレスを吐き出す。
それをリンは宙高く跳んで回避し。
「アレーズ ティング……」
空中で、法力魔法の「波動」の魔法詠唱を開始する。
空中で魔法……?
それに一瞬驚愕するが、バルログたちはラストモンスターを庇うべく、その前に立ち塞がるようにして立ち……
そこに
リンは、バルログたちの真ん前に着地した。
魔法を撃たずに。
ハッタリ……?
一瞬の混乱。
そしてそれは
ただでさえ予想できなかった、リンの一撃を素通しさせる結果を産んだ。
リンは……手刀をただ真っ直ぐに突き出したのだ。
リンの手刀は、バルログの太腿に食い込み、そのまま貫通。
ラストモンスターの頭部に突き刺さりその脳を破壊した。
その瞬間、ギュピィ! という悲鳴を残し。
ラストモンスターの緑色の目から、光が消えた。
「なっ……!」
驚愕のあまり硬直するバルログ。
リンは止まらない。
突き刺した腕を、同じ速度で引き抜いて、別種の目標……他のラストモンスターに接近。
迷いの無い手刀斬りでラストモンスターの首を刎ね。
跳躍し、空中で一回転してのかかと落としのような蹴りによる、足刀斬りでラストモンスターの胴体を両断し。
そして最後のラストモンスターには、その側頭部に手刀による諸手突きを突き刺した……
その、素手での一撃を叩き込み、ラストモンスターを仕留めていく姿。
そこで俺は大事なことを忘れていたことを思い出した。
「馬鹿な! 素手だと……!」
「……ハァ? 忍者なんだから、素手で戦えるのは当たり前でしょ? むしろこっちが本業なんだから」
バルログの呻くような言葉に、呆れ顔で返すリン。
俺も忘れていたよ……
出会ったときから、彼女はずっと十束剣で戦って来たから。
忘れていた。
……忍者は基本素手で戦う職業だ。
武具を使うのは、実はオマケなんだ……って。
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