第74話 コイツはリンのもの
ラストモンスターがいなくなった。
それが分かった瞬間、俺たちはバルログに斬り掛かって行った。
バルログは俺たちの攻撃から逃げられない。
俺たちの技量は低くは無いし。
それに
バルログの1体が、足を怪我していた。
再生しようとしていたが、こちらはそんなものは待たないしな。
「ホッ! まだまだ終わりではありませんよ!」
俺たちの行動方針としては、バルログの動きを封じる。
俺と、おやっさんと、ミナ。
そしてリンは、素手から十束剣に装備を変え……残り1人を相手にしている。
まずはこいつに全力で糸を巻き、それから他を巻く。
リンはそういう作戦なのか。
「素手の方がボクの心臓に届くんじゃないですかねぇ?」
バルログは笑みすら浮かべて、糸の攻撃を回避する。
「その、十束剣を習得するために、どれほどの修練が必要だったか……その努力を想像するとたまりませんねぇ」
バルログの視線……それはリンの顏に向いていた。
自分の発言でどういう反応が返って来るか。
それを愉しんでいるのか。
「必死で鍛えて、明らかに素手より劣る鋭さの武器を操る……泣かせるじゃありませんか」
そしてヤツはリンに接近し。
その耳元でわざと大声で言ったのだ。
「……だから人間を喰うのはやめられねぇんだよぉ」
近づく必要無いはずだろ。
「アハハハッ! 馬鹿じゃねえのか!? オマエの身内の顏なんて知らねえっての! 何キレてんの!?」
そしてバルログが腕を振るうと、無数の炎の剣が出現し、それがリンに殺到する。
リンは連続バク転を繰り出し、それを回避する。
そしてそんなリンの戦いの影で。
「エアイー タベント ヘライート!」
エリオスが、おやっさんに「高速化」の魔法を掛ける。
動きの速さを倍化され、おやっさんの攻撃に鋭さが増す。
「助かるぞエリオス!」
エリオスはそれに応えず、すぐに次の詠唱を開始した。
それは……
「マナ ギフエンス アレーズ ルゼオース!」
魔力魔法第7位階の「潜在能力解放」
それをエリオスはミナに掛けたのだ。
「エリオス! ありがとう!」
ミナの言葉。
だけどエリオスはそれには応えなかった。
答えず、向く。
リンと対峙しているもう1体の悪魔に。
「……他の3体については糸を巻いたわ」
リンはバルログから視線を切らず、そう言った。
それを負け惜しみと捉えたのか。
「オレを捉えられないなら意味ねええええ!」
哄笑しつつ炎の鞭を振るう。
燃える火炎の鞭が、蛇の動きで飛んでくる。
それを回避するリンに
「オマエにオレは倒せない! 何故ならオマエの攻撃は遅いからだ!」
「……それはあなたも同じじゃない?」
「ハァ?」
リンの言葉に、バルログは困惑の声をあげる。
そこに
「あなたなんて動けなくなってるわよ……意識の共有はリアルタイムでは無いようね」
その声には嘲りがあった。
そのせいで
釣られたのか。
自分の分身残り3体の現状を、そのときようやく確認したらしい。
……驚く。
おやっさんが、バルログの足をぶった切り続けている。
ミナもそうだ。
聖者の法衣のデーモンキラー能力と、クリティカルヒット能力。
2人とも、エリオスからの強化を受けていた。
それがあるからこそのこの戦闘力。
当然俺も。
受け持った分のバルログを俺たちは瞬殺し、死んでない状態で維持することに成功していた。
そこまでの戦力差があることに自覚が無かったのか。
「……え?」
……工夫すれば、多分リンの分も行動不能にしてやることもできたと思うんだけどね。
その工夫は、野暮だろう。
何故って。
「終わりよ」
そのリンの言葉と共に。
4つのバルログの首が同時に宙に舞った。
……何故って、
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