第72話 最後の怪物

「肉、食い切れへんほどたくさんやな」


 ティーレックスを2頭仕留めたので、恐ろしく大量の食肉をゲット。

 これで何回グレムリンに遭遇したとしても大丈夫だ。


 これであとは……


 地下9階か。

 9階にはアイツがいる。


 人間の魂を喰らう悪魔「バルログ」が。


 そいつがエレベーターの前で待っている。


 そこで俺はリンを見た。


 リンは……緊張した面持ちをしていた。


 ついに来る。

 仇との戦いが。


「リン」


 俺はきっとこの先の戦いに思いを馳せているであろう彼女に、硬くなるなという意思を込めて話し掛ける。


「タケミ」


 すると彼女は俺を見上げて


「……多分私、あなたに会うためにこの迷宮に来たんだと思う」


 え……?


「あなたに会わなければ、私はバルログとの戦い方を理解することが出来なかった。それに、信頼できる人たちに出会うこともできなかった」


 そんなの……

 俺の力じゃ無いよ。


 そう言おうとしたら


「タケミ。仲間の力っていうのは、人間の力だと思うんだ」


 人間の力……


 その言葉を口にした彼女は。


 正面から俺を見つめていた。




 そして地下9階に到達し。


 俺たちパーティーは今、死闘に向けて歩を進めている。


「バルログは、4体同時に討伐しないと倒せない……理解しました」


 エリオスに、これから戦う相手について話しておく。

 彼に理解してもらえるのは戦いにおいての安心感が違う。


 リンの、前にバルログと戦ったときの感想についても伝えておく。


 リンは残念ながら、正面からバルログの首に十束剣の金属糸を掛けることが出来ないらしい。

 でも、バルログが誰かと戦闘状態になってる場合は首に糸を掛けることが出来る。


 今の俺たちのパーティーは前衛が3人。

 なので、あと1人。


 あと1人なんだ。


 そして


「来たか……?」


 闇のオーラ。

 いや、殺気か。


 あのとき。

 コイツに初めて出会ったときに感じたオーラ。


「ホッホッホ」


 ……いた。


 エレベーター前広場。


 そこに4体。

 黒づくめで、顔の上半分を隠す、嗤いを浮かべた道化師の仮面を身に付けた人影が。


 すでに、限界値である4体に分裂し、待ち受けていた。


「よぉ」


 俺は無双正宗を構える。

 あのときとは違う。


 今の俺たちは、人が揃い、武具も揃っている。

 お前も何かをしてるだろうが、それを考慮しても、俺たちが勝つ。


 そんな俺たちの顔を見て。

 思うのか。


「自信に満ち溢れた良い顔です。……美味しそうだ」


 舌なめずりしている。


「そうそう上手く行くと思うんじゃないぞ」


 魔神の戦斧を肩に担ぎつつおやっさん。


 そんなおやっさんに


 バルログは愉しそうな視線を向けて


「武具も新調してきている……予想通り」


 そう、呟きながら


 ヤツは


「まずはその希望を打ち砕きましょう!」


 その言葉と同時に。

 足元に並んでいた壺を、4体のバルログそれぞれが、自身の投擲した炎の剣で叩き割ったんだ。


 ……そして次の瞬間。

 割れた壺。

 そこにいたのは。


 アルマジロに似た魔物。

 大きさは1メートルくらいか。


 体色は赤錆色。

 目は緑。

 目元から伸びているカマドウマみたいな触覚が2つあり、それをぴこぴこ動かしている。

 しっぽも生えていて、その先端にはプロペラみたいな飾りがついていた。


 ……何だこれは?


 見たことの無い魔物だった。

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