第18話 これが魔人なのか

 大きく息を吸い込み。

 俺は抜刀した。


 ……リンも十束剣を装備している。


 構造上、ドアを開けやすいのはどう考えても俺。

 だから俺は、左手でドアのノブを握った。


 すると


「……私が最初に飛び込んで、仕掛けるから。後追いでお願い」


 リンの言葉。

 実際、そっちの方が都合がいい。


 リンのような、多数を一度に相手出来る戦力がいきなり投入されたら、向こうはきっと混乱する。

 しっかりかき回して貰ってから、行った方が良い。


 ……よし


「いくぞ」


 リンが、コクリと頷く。

 俺はドアを開いた。


 風のように、リンが部屋に入室する。


 ゴアアアアア!


 何かの吼え声が響き渡った。




 俺の方も後追いで入室した。

 そこには……


 ゴアアアアアア!


 ……身長3メートル越えの人型の生物。

 巨人族。


 肌の色は赤紫色で、ところどころにブツブツとした凹凸があった。

 目は白目が無く、黒一色。

 下半身は丸出しで……ぶらぶらとそれなりの大きさのものがぶら下がってる。


 そんなのが吼えている。

 おおよそ知性の感じられない巨人。


 名前はポイゾンジャイアント。

 毒の巨人だ。


 ……それが合計……ええと。


 グアアッ!


 ブシュ、と。

 早速1体の首がぶっ飛んだので……


 ……7体か。つまり、元8体。


 嫌な相手だな……


 でもまあ、リンなら上手くやってくれるだろう。


 それよりも……


 俺は周囲を見回して。

 それを見つけたとき。


 ……まるで、初恋の君を見つけたときの様な胸の高鳴りを覚えた。


 居た。


 侍甲冑を身に着けた、若いヒュームの男。

 表情は虚ろ。生きてる人間の感じが無い。

 人形って感じの表情。


 ……なるほど。

 はじめて魔人を見るけど、あんな感じなんだな。


 魔人は刀を持っている。

 もう……これは確定で良いだろう。


 間違いない。

 これはヨシツネだ。


 ……よし。


 やるぞ。


 そうして俺が刀を八相に構えて、魔人ヨシツネに突っ込んでいったとき。


「タケミ、目を閉じて息を止めて!」


 リンから鋭い声が飛んだ。


 ……反射的にその通りにしたが


 間に合った。


 ……肌がヒリつく。


 これは……ポイゾンジャイアントのアシッドブレスか。


 ポイゾンジャイアントは毒の巨人。

 これはさっき言ったけど。


 じゃあ、爪に毒があるのか、と思うかもしれない。


 ……違うんだ。

 こいつらが有毒なのは、吐息。


 こいつらね……酸の成分が入った毒の息を吐くんだよ!


 だから、浴びてしまったら、目を閉じて息を止めないと。

 目と肺がやられる!


 俺は瞬時に判断し、真横に跳んでくるくると転がって逃げた。


「ゴメンねタケミ!」


 リンの謝罪と、ポイゾンジャイアントの断末魔を目を閉じた状態で聞く俺。

 多分俺にアシッドブレスを浴びせたヤツ、首を刎ねられたな。


 不安ではあるが、俺は目を開ける。

 閉じたままだと危なすぎる。


 敵前だ。


 すると……


 刀を大上段に構えたヨシツネが、俺のほぼ眼前に迫る形で襲ってきていた。


 クッ


 魔法で迎撃を一瞬考えたけど、間に合わない。

 受けるしかない。


 こっちは片膝の不利な姿勢。

 こういうときには……


 俺は刀を水平では無く、斜めに傾ける形でその斬撃を受けた。

 当然、相手の斬撃は止まらず斜めに流れ、俺から逸れていく。


 そしてその構え自体が、俺の斬撃の開始点になっている。

 振りかぶり、繰り出す袈裟の斬撃の。


 受けの型・流刀、の変形。


 まあ、基礎だわな。


 ……それが大事なんだけど!


「フッ!」


 息を吐き、俺は袈裟の斬撃を、上段斬り下ろしを失敗したヨシツネに叩き込む。

 まともに袈裟を喰らい、斜めに斬り裂かれるヨシツネ。

 鎧が一部を防いだが、肩口は守りが薄く、斬り裂かれる。


 それなのに……


 全く何の意にも介さず、ヨシツネはそのまま俺に斬り掛かって来た。

 俺の袈裟を最後までしっかり喰らった後に。


 まるで自分の身体を囮にし、肉を斬らせて骨を断つを文字通りそのまんまやってるような動きだ。

 意味が分からん。ただ一撃入れるために自分の命を危機に晒すなんて。

 ありえない。

 割に合わんだろ。


 その、振り下ろしたヨシツネの刀身が返され、そのまま切り上げ……逆袈裟になってくる。

 俺はとっさのバックステップ。


 ……距離を開けて、俺はヨシツネを観察する。


 ……何故だ? 俺の刀はヨシツネの肩口の隙間に確実に入ったハズ。

 それなのに、ダメージを受けた様子が無い……


 訝しむ。


 そのときだ


 ……俺はヨシツネのその肩口の隙間の傷が、みるみる治っていくのを目撃した。

 鎧のつなぎと一緒に。


 え……!?

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