第19話 ちょっと昔を思い出した
魔人にはヒーリング能力がある?
どうして?
アンデッドなら分かる。
そういうものだから。
でも、魔人って、精霊に近い存在なんだろ?
……ヒーリング能力を持つ理由が無いと思うんだが。
変だ……
そんな、動揺し、思考する俺に。
ヨシツネはお構いなしに突っ込んでくる。
構えは……また上段だ。
捻りが無いな。
同じ攻撃って……
それが必殺だったとしても……
破綻してるだろ。
今度は俺はその上段からの斬撃を、半身になって体捌きで躱す。
まさかここから逆袈裟に変化するんじゃ無いだろうな?
そしたら……
刀身をくるりと返し。
ギュンと打ち上げるように、逆袈裟の斬撃が飛んでくる。
マジか……
もしやと思い、俺の方も八相に構えつつ躱していたから
俺の方も、上段斬りを繰り出せるんだ。
だから……
俺は、ヨシツネの手首を切断するために、鉄斬を仕掛けた。
……ほぼ上段斬りからしか出せんのよね。
鉄斬は。
力が入りにくいから。
文字通り、鉄をも斬る斬撃だ。
高い技量と良い刀と高い身体能力が合わさって、はじめて実現する技だよ。
……鎧を無視して、その手首を切断する!
「セッ!」
俺の気合、俺の斬撃。
それが合致して
逆袈裟を仕掛けているヨシツネの手首が、その斬撃が俺に到達する前に切断され。
宙を舞った。
両手を失ったヨシツネは、その事実を受け止めきれずに動揺……せず。
ポカンと、無表情に、停止して。
そのまま塵になって消えてしまい。
……手首付きで吹っ飛んでいった刀が。
手首をつけたまま浮かび上がり。
……そこに、新たなヨシツネが現れた。
いや……手首からまたヨシツネが生えた。
……ああ。
ちょっと、昔を思い出した。
「何なんだエンジュ。あの戦士、首を刎ねても死なないんだが」
前のパーティーの思い出だ。
何階の話だったかな。
魔法生物が多いエリア……地下7階だったか。
そこで、長剣で武装したヒュームの戦士が敵で出て来たんだ。
で、こいつが……
首を刎ねようが、腕を切断しようが、死なない。
すぐ再生して元に戻る。
んで、なーんも喋らない。
わけが分からないので、エンジュに訊ねた。
すると彼女は優秀だから、その知識の中から検索を掛けて、正解を教えてくれたよ。
「……あれは多分、リビングソードやな。タケミが一生懸命斬り付けてたのは剣が生み出している鞘人形。ダミーみたいなもんやから、いくら斬っても無駄や」
倒すには剣を叩き斬れ。できるやろ? タケミ。
……そんなことを、眼鏡の位置を直しながら言ってくれてたよな。
なーるほど。
多分さ、リビングソードが必ず長剣でないと駄目であるってルール無いと思うんだ。
大剣でも、幅広剣でも良いはず。
そして……刀でも問題ないはずだよな。
で。
そう言う場合、普通、鞘人形の形も、武器に合わせて変えるよな。
でないと正体が簡単に分かってしまう。
騙してナンボなんだし。
だったら……
俺は阿修羅を吹雪の相に切り替える。
阿修羅の刀身に吹雪が巻き起こる。
そして
「ハリ ムドーラ マハル ジーオ!」
刀を持っていない左手で印を結び、魔法語を唱える。
……魔力魔法は、法力魔法と違って印を結ぶ必要があるのが面倒だわな。
俺の唱えたのは火球爆裂。
広範囲に炎を撒き散らす炎の魔法。
詠唱が完成すると同時に、火炎球が俺の前に発生し、刀のリビングソードに向かって飛び出していく。
刀のリビングソードは予想通り、お構いなしに上段の構えを取りながら突っ込んでくる。
俺は下段斜めに刀身を構える構え……脇構えでそれを待ち受ける。
火球着弾。破裂。
火炎に包まれる鞘人形の侍。
炎の中、高熱に怯まず振り下ろされる刃。
それに俺は合わせた。
脇構えからの横薙ぎ斬撃。
吹雪を纏う、冷気の刃。
それが十字を形作る形でかちあう。
刀と刀。
次の瞬間。
キンッ!
高い音がした。
何かがはじけ飛び、石畳の上に転がる。
高い、澄んだ音を立てながら。
それは……半ばから折れた刀の刀身。
……俺がヨシツネと信じていた存在は、その瞬間塵になって消えた。
後に残されるのは、刀身が半分以上折れ飛んだ一振りの刀。
まともな鉄斬は、上段斬りでないと出せないけど。
刀相手なら、冷熱衝撃を併用すれば、脇構えからの横薙ぎでギリなんとか。
で、いけた。
しかし……
……勘違いだった。
うん……残念だ。
残念だよなぁ……。
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