第20話 妙な戦利品。そして

 ゴアアアアッ!


 見ると。


 リンがポイゾンジャイアントの最後の1体を斬り刻んでいた。

 足を切断して移動を封じ、その上で首を切断する。


 3メートル超の巨体が、石畳に倒れて転がる。

 死骸が最期の痙攣をする。


 決着。


「終わったあ」


 んー、と。

 十束剣の指輪を嵌めたまま。

 リンは上に伸びをし、一息入れた。


「タケミも勝負がついたみたいだね」


 嬉しそうに、彼女。


「宝箱の中身が楽しみ、楽しみ」


 るんるん気分で、宝箱に向かう。

 ……ああ、気づいて無いよな。

 そりゃ。


 あれ、魔人ヨシツネじゃなかったんだよ。


 ……どうしよう。


 言うべきか……?


 色々、考える。


 この部屋の情報を持ってきたのは、リン。

 俺はそれに乗っかってきただけ。


 俺に文句を言う資格は無い。

 だけど……


 この件を伝えないと、今後魔人ヨシツネの情報が入っても、リンは重要視しなくなるよな。

 それは……絶対に不味いよな。


 ……よし。


「あのさ」


 呼び掛けると、緑色の瞳が俺を振り返った。


「何?」


 ……大事なのは第一声だ。

 ここは……


「俺も間違ってたんだけどさ、あれ、リビングソードだった。刀の。珍しいよな。聞いたこと無い」


 そう、ちょっと笑ってみせつつ軽めに言った。

 すると


 リンが少し申し訳なさそうな顔をした。


 ええっと……


「……なんか……ゴメン。酒場の話を裏取りもしないで持ってきちゃって……」


 いやいやいや。


 俺は慌てて否定する。


「裏取りしてたら、本当だったときに間に合わなくなるだろ。それでいいんだよ。争奪戦なんだから」


 彼女の反省を俺は否定した。

 この件は、彼女は全く悪くない。


 そういうと


「うん……まぁ、次こそは正しい情報を持ってくるよ。保証はできないけど……」


 彼女はそう言って、宝箱に向き直る。

 この件はこれで終わりだってことなのか。


 ……これでいいのかな?

 彼女との仲は壊したくないしな。


 彼女は金で縁取りされた宝箱の傍に歩み寄り、こう言う。


「タケミ、透視をお願い」


 分かった。

 だけど


「リン、その位置にいたら透視できない」


 ……セクハラになるから全部は言えないが、それだけ。

 するとリンは脇にサッと退いた。




 透視の魔法を使い、宝箱を見る。

 すると……こんなものが見えた。


 宝箱の蓋部分に、連動するようについてる仕掛け。

 その仕掛けの動作の先に、毒々しい色の液体が詰まった瓶と、その蓋があった。

 仕掛けの動作で、瓶の蓋が開いてしまう仕掛けだ。


 ……ああこれ。

 ガス爆弾じゃん。


 仕掛けが作動すると瓶の中身の液体が爆発的に気化して、周囲に毒をまき散らす。

 そういう罠。


 だから


「ガス爆弾だ」


 それをリンに伝えた。

 脇に退いていたリンは「分かった」と言い、宝箱に挑んで行った。




「解除できたよ」


 数分、宝箱の傍にしゃがみ込んでカチャカチャしてたけど。

 急にこう言われた。


 おお


 中身にはあまり期待できないけど。

 この瞬間は楽しみだ。

 期待してる中身と、面白い中身は別だから。


 中には……


 背負い袋と

 のぼり

 男のアレの彫刻と

 薬瓶


 あと、金塊と宝石。


 背負い袋は、ちょっとデザインが古いかな。

 でもまあ、別にみっともなくは無い。

 肩紐を両肩を通して、背中に背負える構造の袋。


 幟は……折りたたみできる構造。

 何か文字が書かれてるけど、ちょっと読めない。

 古代語?


 男のアレは……うん。アレだ。

 緑色の彫刻。結構大きい。


 薬瓶は……ラベルが貼ってあるな。

 読めないけど。


 ……まあ、戻ってからエリオスに頼んで鑑定して貰えば問題ないよな。


 しかし


「なんか、面白いアイテムが出たな。見たこと無いものがいっぱいだ」


 俺の正直な感想。

 刀が宝箱に入っていた場合の次にワクワクする。


 だけど


「うん……そうだね」


 リンはちょっとコメントしづらそうだ。

 目を逸らしていた。


 ……やっぱこの緑色の彫刻が原因なのか?

 確認は取れんけど。

 セクハラだし。


 なので、ちょっと焦ったので


「もう2~3部屋回ろうか、まだ余力はあるわけだしさ」


 慌て気味で戦利品を自分の背負い袋に入れ始めた。


 そのときだった。


 グアアアアアアアアアアアッ!!


 凄まじい叫び声。

 なんか、迷宮中に響き渡る勢い。


 ……俺は直感的に「これは魔王の断末魔の叫びだ」と理解した。

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