3章:変化する迷宮
第21話 見つけた
「すっごい吼え声。……悲鳴?」
「かもな」
リンの言葉に、俺はそう少し上の空な声で答えた。
多分、あれは魔王が討伐されたサインだ。
ミナたち黒パーティーがやりやがったんだ。
……これからは、通路に魔物が出なくなる。
つまり、仕事がやりやすくなる。
宝物部屋しか魔物が居ないんだから、限界ギリギリまで頑張れる。
まぁ、ビーン一族に殺されてしまうほどボロボロになるのはマズいけど。
つまり、喜ばしいこと。
少しだけ悔しいけど。
前のパーティーのときは、俺たちがこの役目を担うんだと思ってたわけだし。
でもまあ、ただそれだけ。
懐のためを考えると、プラスしかない。
魔王討伐を完遂されるってのは。
だけど……
(何なんだ。この胸騒ぎは)
根拠なしの嫌な予感があったんだ。
何だか、すぐにこの迷宮を脱出しないといけない気がする。
理由は分からない。
本当に分からない。
だから
「リン、やっぱり今すぐ帰ろう」
荷物を背負うと、サッと立った。
そしてそのまま出入り口に向かう。
「うん。そうしよう」
何故かリンも、稼ぐのを止めて帰還に賛成した。
(何故か、魔物に遭遇しないことが不安になる)
そんなことを内心考えつつ、足早に歩く。
魔物に遭遇しないのは別に珍しくは無いんだけど。
なんだか、これからやってくる地獄を迎え入れるための沈黙。
嵐の前の静けさ?
そんな感じ。
そういう風に思えた。
根拠があるわけじゃない。
ただの直感だ。
「もうすぐだよ」
エレベーターが見えて来たので、リンが言って来た。
俺は頷き、足を速めた。
駆け寄って、地下4階のボタンを押す。
エレベーターが動き出して、すぐ観音開きのドアが開いた。
籠がこの地下10階に停止してたのかな。
「なんだかエレベーター遅くない?」
俺もそう思った。
止まってはいないんだけどね。
今地下6階だし。
「何かそんな気がするよな」
リンの言葉に俺は頷いた。
ゴンゴンいいながら籠は上昇している……ハズ。
本当に、焦ってるせいなのか。
遅く感じてしょうがなかった。
今、地下5階。
「……魔王を倒した黒パーティーを待った方が良かったかな?」
リンがそんなことをポツリと言う。
うん……
常識的に考えて。
それは要らない気遣いなんだ。
迷宮に入ったら、他のパーティーのことなんて気にしなくていい。
迷惑になるかも、優しくないだろ、とか。
そんなの、迷宮で生き残ることの重要性と比較したらゴミだ。
例え、あの黒パーティーが魔王との戦いで半壊してて。
1秒でも早く街に戻りたかったとしても。
俺たちのせいでエレベーターに待たないと乗れなかった!
謝れ!
これは通らない。
知るか、で終わる。
こっちはこっちで事情がある。
生きて帰りたいのはこっちだって一緒なんだから。
それが迷宮のルールなんだよ。
……だけど
「……降りたときに10階のボタンを押していこう」
そのためには鍵がいるな。
俺は道具袋を探った。
……そして地下4階に着いた。
「……これでいいか」
降りたときに、エレベーターのロックを解除して、地下10階のボタンを押した。
エレベーターのドアが閉まり、無人のまま地下10階に降りていく……
……黒属性だから出た、優しさかね。
ふと、思った。
このエレベーターの気遣い。
俺じゃ出なかったよな、と。
常識でいえば降りっぱなしで帰っても文句言われないんだよ。
それが当たり前であり、迷宮を探索する冒険者の常識だから。
そんな気遣いをして、生き残れなかったらただのアホじゃん、みたいな感じだ。
皆そう言う。
……でも、リンはそこに囚われず、この状況でその気遣いができた。
まあ、敵には一切容赦しない女だけど。
こういう優しさや、思いやりがあるよな。彼女……。
俺はそういう彼女の美点に、少しだけ良い気分になった。
ちょっとだけ、アガったんだ。
……だけど。
数歩歩いて、一瞬で冷めた。
……何だこの殺気は!?
そのエレベーター前の広場に。
永久凍土のような、凄まじい殺気が満ちていたんだ。
リンもそれに気づいたらしい。
俺は愛刀に手を掛ける。
リンも、十束剣を素早く装備した。
そして俺は周囲を見回し。
声を張り上げた。
「誰だ!? 出て来い!」
……自分を鼓舞するように。
するとだ
「ホッホッホ」
……男の声だ。
老人のようにも、若者のようにも聞こえる。
だけど、間違いなく男の声。
それが
それは迷宮の影の中に居た。
ゆっくり、歩み出てくる。
……身長はかなり高い。
180センチ以上は絶対ある。
そして、黒装束。
……忍者なのか?
左手の甲に金属製の爪を装備しているし。
素手の延長で、ああいう武器を付けるのは忍者だったと思うんだけど。
「地下10階からのエレベーターから降りて来たとは……こいつは美味しそうですねぇ」
舌なめずりしている。
顔は見えない。
上半分が、仮面で隠れているから。
目の部分が嗤ってるようなデザインの、道化師っぽい仮面だ。
……舌がやけに長い。
爬虫類か両生類みたいに見えた。
……怪人。
こいつを表現するのに、一番適当な言葉はこれのような気がする。
俺がそう、この目の前の怪人に戦慄していると。
「……見つけた」
……リン?
隣に立つリンを見た。
リンは……震えていた。
激しい怒りの表情を浮かべながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます