第22話 怒りのリンフィルト
「リン……?」
俺は隣で怒る彼女に戸惑う。
……彼女が怒っているところは見たことが無かったんだ。
まだ、3か月くらいの付き合いだけど。
「死ねッ!」
そんな言葉を吐きながら、彼女は手を動かした。
それに合わせて、十束剣のミスリル銀製金属糸がマスクの怪人を襲う。
怪人は
「ホホーッ!」
愉し気な嗤いを残し。
舞うような動きでそれを躱す。
まるで曲芸師の動きだった。
そしてそれに対する彼女は
「死ねえ! 殺すッ!」
……動きが怒りで乱れている。
リンじゃないみたいだ。
正直、信じられなかった。
リンがこんなふうになるなんて。
「リン、落ち着け!」
そう強く言って、俺は俺で怪人に斬り掛かる。
怪人が跳躍して着地する瞬間を狙う。
俺は逆袈裟で、怪人の下半身からの斜め上への斬り上げを狙う。
怪人は
「ホーッ! 素晴らしい!」
左手甲の爪で、その斬撃を受け止めながら俺を賞賛する。
……何が素晴らしいんだ。
意味が分からん!
そう思い、俺は身体を捻って怪人の腿を狙って蹴りを放つ。
それと同時だった。
……怪人が2人に増えた。
俺の剣を受け止めている怪人とは別に、その背後にもう1人の怪人が現れたのだ。
……全く同じ姿。
「ホーッ! 完成度の高い蹴りだ! なんという研鑽! 是非味わいたい!」
……俺の下段蹴りを喰らった怪人は、ダメージを受けているはずなのに何故か嬉しそうだった。
俺はその意味不明具合に混乱しそうになったが、敵が2人に増えたので、立て直すためにその場を跳躍して距離を離す。
その途中に
「ダイン ジーオ ティング!」
片手で印を結び、電撃放射の魔力魔法の詠唱をする。
狙いは当然……
……新しく出現した方の怪人。
自分が攻撃されることを予想していなかったのか。
そっちはまともに俺の電撃を浴びた。
俺の目の前から迸る青白い雷光が、怪人を直撃する。
「くっ……」
よろめいた。
無傷では無いらしい。
だけど
「ホーッ!」
そのまま、傷ついたままヤツは跳躍をして。
そして俺が戦っていた方は
その場で、リンの金属糸で首を落とされた。
……1体倒したけど、まだ1体……!
斬首された怪人はドロドロの粘液に変化して、蒸発するように消えていく。
俺は事態があまり好転した気がしなかった。
「さすがにこの侍の青年を相手しながら、その金属の糸を避けるのは無理筋ですねぇ」
……この声を聞いたとき。
それがますます強くなる。
いや
絶望的になった。
……死んで無いのか!?
転がっていた怪人の首が、そんな言葉を吐いたんだ。
「死ねっ!」
怒りの形相のリンがその首を縦に割った。
すると
その真っ二つの生首が、膨れ上がってそれぞれ別の怪人になった。
これで、合計3人。
姿は一緒。三つ子だ。
「ホッホッホ。そんなに怒らないで。……ボクの過去の食事の遺族ですかね? 本意では無いんですよ。諦められませんか?」
「諦めるわけ無いだろッ! お前を殺すために私は忍者になったんだッ!」
……リン。
彼女は鬼の形相だった。
いつもの美しくて、どこか愛嬌のある彼女では無かった。
……これは……いけない。
「リン! 落ち着け!」
強く言う。
頼む……落ち着いてくれ!
ギリギリの戦いでは、平常心が必須なんだ。
勝つためには……!
だけど……
「許さない……! 私たちの親の仇……ッ!」
怒りの形相のまま。
乱れた動きで、糸を操る。
ダメだ……! 落ち着いてくれない……!
そのときだった。
「タケミ!」
「タケミや!」
……聞き覚えのある声。
いや、聞き慣れていた声。
「どうした!?」
「何しとん!?」
前のパーティーの背の低いコンビ。
ドワーフ戦士のダラクデルグとノームの学者エンジュだ。
彼らは金属鎧の板金が打ち合うガチャガチャした音と、軽快な革靴の音を響かせながら。
俺の傍に駆け寄って来た。
……そういや、彼らの狩場はこの地下4階だったっけ。
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