第17話 いない人の悪口はやめよう

「……さっきの女性が、前のパーティーを崩壊に導いたっていう聖騎士なの?」


 一緒に直通エレベーターに乗ったとき。

 開口一番にリンが俺にそう声を掛けてきた。


 エレベーターを待ってる間、色々ぐるぐる考えてて。

 ずっとダンマリだったの、彼女的には嫌だったのかね。


 そう思い、少し申し訳なくなり


「……ああ。良い奴だと思ってたんだけどな。勇敢で、度胸もあったんだけどさ」


 どんな恐ろしげな魔物が現れても「頑張りましょう。勝てたらきっと素晴らしいです」って言って、不敵に微笑むような。

 そう……必ず勝てる勝負しかしないような、卑怯な意気地なしの女じゃ無かったんだ。


 苦しいときは率先して前に出て。

 自分が求められている、敵の攻撃の標的役という役目をキッチリ果たしてくれて。


 おかげで俺は、思う存分目の前の敵に集中できたんだ。

 照れずに言えば、戦乙女だと思ってた。


 それが……ああなるとか。

 ねぇだろ。


 ……まぁ、エリオスの件は。

 あいつのセックスが下手だとか、すぐイってしまって白けるとか。

 そういうことは言わなかったんだよな。

 あの女。


 つまり、エリオスを侮辱してはいないんだ。


 ただ、チ〇ポの数に不満がある、と。


 これは男の身体の構造上の問題だから、エリオスへの悪口じゃない。

 だから、侮辱では無いんだよ。


 ……でもある意味、そっちの方がやばいのかな?

 どうなんだ?


 って……


「……ごめん。ちょっと居ない人間の悪口になりそうだから、勘弁して」


 ミナに対する批判意見が次から次へと湧いてくるけど、それを延々と第三者に聞かせるってどうなんだ?

 みっともないよな。


 ……やめよう。

 言っちゃなんだが、男が下がる。


 で、なので。

 俺は強引に話題転換した。


「もうすぐ黒パーティーが魔王を倒すわけだけど、何か不都合って考えられるかな?」


 そう、話題転換をしたとき。

 チーンという音と共に。


 エレベーターは、最下層に到着した。




「魔王が討たれても、ただ通路を徘徊する魔物が居なくなるだけだから」


 エレベーターを降りて。

 歩きながら雑談を続ける。


「俺たち的にはまるで問題ないよな。ただ、死骸処理を目的に迷宮を徘徊しているキャリオンクロウラーが餓死するかもしれんくらいで」


「そうね」


 俺の話に、リンが相槌を打ってくれる。


 キャリオンクロウラー……

 犬くらいの大きさの芋虫のモンスター。

 

 別名、迷宮の掃除屋。


 死肉や腐肉を喰って生きており、主なエサは、冒険者が殺した魔物の死骸。

 悪魔系モンスターやら、死霊系アンデッドモンスター、一部の高位のアンデッドなどは、倒すと死骸が残らず消滅するんだけど。

 そうじゃない奴らの死骸は、そのまんま残る。


 ……入口で皆殺しにしたビーン一族みたいな感じで。


 そうすると、そのまま放置した場合、死骸が腐敗してとんでもないことになると思うだろうけど、そこにこのキャリオンクロウラーが出てくる。


 彼らは死骸が発生すると飛んできて、それを食べてしまうのだ。

 だからおそらく、あの入口の惨状も、戻る頃には綺麗になってると思う。


 ……本当に、迅速なんだ。


 なのでまあ……


 この迷宮内で魔物に倒されて全滅するとね……

 まず、もう二度と生き返れない。


 ……死骸をキャリオンクロウラーが食べてしまうから。


 冒険者は、最下層まで潜れるようになると、常人の年収の何倍もの額のお金を一晩で稼げるようになってしまうけど。

 それはこれ。

 完全なる死の危険と隣り合わせのものなんだよ。


 ……楽な仕事なんて、ホント、無い。


「ああ、でも。宝物部屋の魔物も、放置してても死骸消えてるし。関係ないか」


「……問題は、1階の宝箱部屋を、ビーン一族が荒らすようになりそうだな、ってことくらいじゃない?」


 ああそうだな、と相槌を打つ。

 通路の魔物が狩れないなら、宝物部屋の魔物を狙うしか無いわけで。

 そうなると、宝箱を開けたくなるよな。


 ……幸い。地下1階の宝箱は中身がしょぼい分、あまり深刻な罠は仕掛けられてないし。

(まれに、罠の無い宝箱すら存在するし。地下1階は)


 ……ああでも。

 鍵が魔王再復活で復活するのがちょっと面倒だな。

 2年後の話だけど。


 この迷宮、かなりたくさんの扉に、正規の鍵が存在しない鍵が掛けられていたのよね。

 ……盗賊や忍者が鍵開けの技術を駆使しないと開かないやつ。

 もしくは魔法で鍵開けしないといけないやつ。

 本来は。


 それが魔王が約2年後に復活した際、全部復活するんだ。

 ウザい。


 そのときはリンの手を煩わせないといけないじゃないか。

 お礼を言わないといけないから、気を遣ってしまうというか。


 ……なんて言ってるうちに。


「この部屋よ」


 ……とうとう、着いた。

 この先に……居るのか。


 俺は大きく息を吸い込んで、明確にこの石の扉の向こうの存在に意識を向けた。


 いくぞ……


 魔人ヨシツネを、絶対に倒すぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る