第16話 黒との遭遇

 さー、鍵、鍵。


 直通エレベーターのロックを解除させる鍵。

 10階に到達して、魔王の間に向かうルート。

 その進行上で必ず通る部屋で、一番最初の部屋。


 そこで出現している宝箱に、必ず入っている。

 名付けて、エレベーターの鍵。


 ……名付けて、ってなんなんだ。

 そのまんまだろ。


 それを道具入れの小袋から引っ張り出そうとしていたら


「もしもし」


 ……後ろから、知ってる声に声を掛けられた。


 女の声だ。




 振り返る。

 やっぱり、こいつか。


 清楚な長い黒髪の、ヒュームの爆乳女。

 見た目は。


 上品な顔つきの美人。

 極上の貴婦人だ。

 見た目だけは。


 エリオスから、まともな人生を奪い去った女。

 人呼んで、暗黒騎士。またの名を、性騎士。

 正式な職業名……聖騎士。


 ミナだ。


 食べられるチ〇ポの数と、聖者の法衣で俺たちを切った女……!


 エリオスほどじゃないけれど。

 俺だって、こいつに良い印象は持っていない。


 できれば口もききたくない。


 しかし……聖者の法衣。

 それには目が行ってしまう。


 なんたって、伝説の防具だものな。

 聖騎士じゃなくても、興味はあるよ。


 法衣って言うだけあって、どうみても布製だ。

 ただ、作りが鎧っぽい。


 布で作られた鎧。

 それが一番しっくりくる気がする。


 ただ、法衣というだけあって、司祭が着ててもおかしくない雰囲気もある。


 胸の前の布が白。

 肩回りが青。


 ……これが……全ての聖騎士が憧れる「聖者の法衣」か。


 これで……こいつは俺たちを切ったんだな。


 そんなことを、この女の装備を見つめつつ考えていたら。


「あのさ、訊いてるんだけど。ミナが」


 ……俺に対する鋭い声が飛んで来た。

 黒パーティの魔術師からだ。

 金髪色黒のヒュームの優男。


 ええと……確かチャラオウだっけ?


 そいつ、不機嫌そうに。


「ミナちゃんにパーティーから抜けられてイラついてるのは分かるけどさぁ、それでぶーたれてんじゃねぇよ。アンタ」


 ……イラッとするけど、相手に合わせるのは良くは無いわな。

 俺は抑えた。


「……ああ、ゴメン。伝説の装備ってやつに興味があって、思わず見惚れてしまった」


 正直に言って、詫びる。

 すると


「ウチの自慢の盗賊の、ヤリーチンが魔人ランスロットの宝箱を開けて手に入れたんだよ。すごいだろ」


 何故か、ドヤ顔自慢げに、角刈りの黒サングラスの神官風装備のヒューム男……確かマオートコが教えてくれた。


 その言葉に、俺は衝撃を受ける。

 魔人ランスロット……最初に、神の啓示を受けて聖騎士に覚醒したという伝説の聖騎士の魔人か……


 そっか……そうなのか。


 やっぱ、噂は本当なんだ……

 魔人の宝箱は……「有る」んだ。

 ここに実例があるじゃないか……


 ムカツクやつらのはずなのに、その言葉に舞い上がってしまう。


「ヤリーチンくんすごーい」


「すごーい」


 ……何かスゲー頭悪そうな、メイクに呪術的目的があるんじゃないかと疑うほど、化粧が濃いヒュームの女2人が、さっき話に上がった盗賊ヤリーチンを賞賛する。

 2人ともやけに日焼けしている。

 髪の色は白に染めており、髪質はそれで荒れた感じだ。


 装備を見た感じ、戦士かな……

 ブレストアーマーで武装して、武器は大金槌と大戦斧だ。


 で、ヤリーチンと呼ばれた男は……


 黒髪の美ノームだった。

 悪魔的に可愛らしい美ノーム男性だ。


 革鎧で武装して、腰に短剣を差している。


 女2人に褒められて、嬉しそうな顔していた。


「……ああ、すごいな。憧れる……」


 色々な意味で、そう言ってしまった。

 伝説の装備で、色々考える力が失われていたらしい。


 すると


「だろう? ……で、悪いけど鍵出すの手間取ってるなら先に使わせてくんない?」


 チャラオウがそう言う。手に鍵を示しながら。


 ……邪魔だよ、と言外に言っている。


「そうよ。私たち、これから魔王を倒しにいくんだからー」


「ねー! ヤリマーン、がんばろーね」


「うん! アバズレン。任せてー」


 大金槌を使ってるのがヤリマーンで。

 大戦斧を使ってるのがアバズレンか。


 ……黒パーティーのやつらの名前、覚えたかもしれん。

 どうでもいいはずなのに。


 ……まぁ、それはそれとして。


「ああ、すまない」


 俺は道を譲った。

 ここでいがみ合っても、意味がない。


 俺たちがこれから目指す部屋は、10階の魔王の間直通ルートに存在しない部屋だし。

 だから、先に行かせても構わない。


 争うだけ無駄だ。


 すると


「チーッス。感謝しまーす」


 口だけの礼で、鍵でエレベーターのロックを解き。

 そしてぞろぞろとロック解除を行った直通エレベーターに乗り込んでいく6人組。


 ……頑張れば、8人同時に乗れるかもしれんけど。

 それは正直、メチャクチャ嫌なんだよな……。


 あーあ。

 転移の魔法さえあればな……!

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