第15話 昔の話をしてみた
「……待たせて悪かった」
俺は刀を鞘に納め、リンにそう詫びた。
もう少し早く俺がいたら、ビーン一族が絡んでこなかったかもしれないし。
すると彼女は
「通常アイツらはもう少し奥で出てくる敵だよね。謝らなくていいよ」
両手で握りこぶしを作って、軽く振るう。
……どうやってるのか分からないけど、その動作ひとつで、その拳の中に金属の糸が巻き取られていくように収納される。
そうやって収納が終わると、その手を懐に入れ、指輪を全て外してしまう。
そして綺麗な笑顔で
「さあ、行こっか」
そう言ったんだ。
……そこら中に人間の死体が転がってるこの状況で。
リン、やっぱ忍者なんだなぁ。
こういうとき、特にそう思う。
ビーン一族に遭遇するたび。
忍者は戦闘マシーン。
目的のために必要だと思ったことをそのまんま実行に移せる人間でしか就くことができない。
……なるほど。だから黒か。
それを否応なく納得させられてしまう。
……俺は先行して歩き出した彼女を追った。
散らばっている死体を、踏まない様に避けて歩きながら。
地下4階までは歩いて行かないといけないんだ。
地下1階から地下4階までのエレベーターもあれば楽なんだけどな。
……それぐらいあってもいいよね。
勝てると分かってる戦闘をしても修行にはならんし。
だらだら歩くのはタルいし。
「そういやさ」
ただ歩き続けるのが暇なので、隣を歩いているリンと雑談をしたい。
特に目的があるわけじゃない。暇潰し。
「何? タケミ」
応じてくれる。
俺は……
「なんでリンは、神官やってたのに、忍者になろうと思ったの?」
なんとなく、前から漠然と思っていたことを訊いた。
あまり聞かないんだよな。
黒の盗賊としての修練を積んで、そこから忍者になるという事例はたまに聞くんだけど。
神官から忍者になるって事例、聞いたことが無い。
神官が転職する先は、普通司祭か魔術師なんだよ。
白属性だったら、侍がありえるんだけどさ。
すると……
「私ね……最初は村の神殿で神官やってる両親のところに生まれたので、そのまま神官を続けて、ゆくゆくはそのまま神殿勤めの神官になる予定だったんだよね」
うん。
そこは前に聞いた。
俺は相槌で頷く。
すると
「……私の村は子供はひとまとめにして、村全体で纏めて育てるってやり方で」
子供の世話は世話係を職にしている人が、数人で専属でやってた。
村では「保母、保父」って呼んでたんだけど。
……俺の故郷では聞かないシステムだな。
変わってる村……。
「なので、村の子供は全員が兄弟みたいな感じで。ヒュームもいれば、ノームも、ケットシーもいる多様性のある村だったんだけど」
ふーん……
楽しそうだな。
……で、そこが何で忍者に繋がるんだろう……
そう思ったけど、暇つぶしと彼女との心の交流目的の会話なので、そこはツッコまないでおいた。
だけど
「……」
そこで。
彼女はいきなりダンマリになった。
……おや?
何でそこで黙るの?
そう思ったけど。
……なんか言いたくないこと、あんのかな?
俺、ちょっと思慮の足りないことを訊いてしまったのかな?
なかなか無いタイプの転職ルートってことは、そうせざるを得ない何かがあったってことだし。
特にさ……後衛職から、超攻撃的な忍者に転職して「まとめて倒す修行のために最下層に潜ってる」って言えてしまう状況だ。
そこらへん、察しようや……
俺は、自分の浅はかさが情けなくなったが
ここでそのことを謝るのは違うよな。
だったら、最初から言うなって言われるに決まってるしさ
だから
「……俺さ、親父にまあガキの頃から剣術を仕込まれていたわけよ」
代わりに自分のことを話しはじめた。
俺は冒険者の小倅だったから。
家を持たない暮らしだった。
母親は知らん。
なんか、パーティ内で恋愛して、勢いで作った子供らしい。
俺。
……で
パーティ内恋愛って、それが原因で寝取り寝取られが発生して、崩壊する場合が多いらしいんよ。
ウチの親父がまさにそれで。
母親と子供を作ったはいいものの、母親が別のメンバーの男に寝取られて。
パーティ崩壊。
親父は母親については早々に諦めて、寝取りについて文句は言わないが息子は寄越せ。そこは絶対に譲らんと言ったらしい。
……そしたら、それが通った。
まぁ、寝取られといて、息子まで親父から取り上げようとしたら、名刀「阿修羅」を持ってる優秀な侍が自分に激しい憎悪を持つってことだし。
身の危険があるから、認めざるを得なかったことがあるのかもしれないけど。
で、俺は親父の夢を聞かされて育った。
親父のことはカッコイイと思い続けてデカくなったし、免許皆伝のお墨付きを貰ったときに、阿修羅を渡されて、俺は泣いた。
……母親のことで、親父は別に悪口は言わなかった。
特に語りもしなかったけど。
でもなぁ。
やっぱ、俺……エリオスほどじゃないにしろ、女が信じきれないところがあるのかもしれないな。
俺、リンについて「黒と恋人関係になったら、俺の立つ瀬が無くなる」ってのを理由に口説くのを思い留まってるけど。
そうは言いながらも確実に「黒属性の人間には、生涯結婚せずに恋人関係しか作らないタイプの人間が多い」って話が頭にあるしな。
……ようは、黒属性の人間は感情で動くから、婚姻関係を結んでも貞操を守ることが難しく、結果「後で不貞して問題を起こすくらいなら最初から結婚しない」という判断をする人間が多い、ってことなんだけど。
そこから俺「リンを恋人にできたとしても、どうせいつか寝取られるんだろうな」って危惧があるからな、多分。
リンに対して失礼だから、無論言えないけどさ。
そんなことを、自分の修行の話をつらつらしながら、思い返していた。
すると
黒い観音扉のドアの前に辿り着いた。
ドアの横に、5から10までの数字が書いたボタンが付いている。
そしてそのボタンの隣に、小さい鍵穴。
それを見上げ、リンが嬉しそうに微笑みながら、言った。
「……ついたよ。直通エレベーター」
来た。
最下層である地下10階に繋がっている……直通エレベーター!
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