第84話 閃光業火
どうする……閃光業火だ……!
唱えられたら終わりだ。
それ以前に、アイツ、閃光業火の威力でこの階層が吹っ飛ぶことは考えないのか!?
俺たちと心中するつもりか……?
「おい! 考え直せ! その魔法を放ったらお前も死ぬんだぞ!? 分かってるのか!」
……情けない話だが、説得。
それ以外、俺は打つ手を思いつかなかったんだ。
エリオスに負けたショックで、そこまで自暴自棄になってしまうなんて。
俺は楽に勝てるとは全く考えていなかったけど、このケースは想像していない。
……嫌だ。
ぶっちゃけ、俺はどうなってもいい。
でも……
俺はリンを見た。
彼女の顔は強張っている。
……彼女だけは、助かって欲しい。
彼女と、俺たちの子供が死ぬことだけは受け入れられない。
「リン!」
俺は余裕の無い声で彼女に訊く
「ブラケルの首を落とせないか!?」
「そんなの、最初からやってるよ!」
リンから帰って来た言葉もやはり、余裕がなかった。
半分泣き声に近かった。
……なるほど。
認めたくないけど、納得せざるを得ない!
アイツ、動きながら閃光業火の詠唱をしているものな。
つまりそれは、そういうことなんだ。
アイツ、回避行動をとりながら、閃光業火でさえも詠唱できるのか……!
アイツがエリオスより優れている部分があるとするなら、間違いなくそこだよな。
だからこそ思いついたのかもしれない。
自分のプライドを回復させる方法を。
もはや閃光業火を回避行動を取りながら詠唱できるという強みを見せつけるしか無い。
……畜生。
詰みかよ……!
悔しかった。
守れなかったことが。
おそらく無駄だろうが、俺も唱える。
唱える魔法は……「麻痺」
第4位階の魔力魔法。
おそらく抵抗されるだろうけど、効けば助かる。
詠唱を止められる。
……そのときだ。
閃いたんだ。
最良の手を。
「エリオス!」
俺の閃いた手。
それは、エリオスが麻痺をアイツに仕掛けることだ。
エリオスなら!
エリオスならアイツに麻痺を通すかもしれない!
エリオス! アイツに麻痺を掛けてくれ!
そう、言おうとした。
……だが。
俺は気づいてしまった。
エリオスも両手で印を組んでいることに。
とても真剣な表情で。
「マナ エアイーラズ ハースニ……」
……何をやってるんだ?
発動したら終わりなのに!
そこにもう1発、閃光業火を突っ込むなんて!
俺はエリオスを聡明な男だと思っていた。
だから、この彼のリアクションは信じられなかった。
エリオスは聡明で、冷静な奴だ。
そんな彼がそんな真似をする……
「ディバ ビラム……」
いや……待てよ?
……そうか!
……この魔法、あまりにも強力で、魔法の本体が発動する前に結界が発生する。
そしてその結界は、閃光業火の熱線と爆風を完全に防いでしまう。
で。
閃光業火の術者とその仲間は、魔法本体が発動する前にその結界内に避難するんだ。
……つまり。
閃光業火の魔法は、同じ閃光業火を唱えることによって即死を免れることができるんだ。
詠唱途中に発生する結界だけは、閃光業火を防ぐことが出来るから。
そんなことを。
俺は……俺たちの周囲半径3メートル圏内に出現した円形の透明なドームを見ながら考えていた。
……俺はここでブラケルを見る。
彼は……!
あからさまに焦った表情を浮かべている。
彼はどうも、同じ閃光業火の詠唱で対抗してくる可能性に気づいていなかったようだ。
怒りに任せてはじめたことなのは間違いない。
そしてここから……
おそらく、この迷宮は閃光業火の高熱と衝撃に耐える。
そこも分かった。
もし心中するつもりなら、ブラケルはいちいちショックを受けたりしない。
一切注意を払わずに魔法語詠唱を進めたはずだ。
だから……
「ショサル テラス アレーズ……」
召喚、太陽、力……
「ユス ジンラ ジンラ タートレイ……」
使用、消滅、消滅、完了……
そしてルゼオース。「全て」を意味する最後の魔法語を残して。
そこで双方、詠唱がストップした。
……膠着状態に陥ったのだ。
ここから先は、先に魔法を発動させた方が負けを確定させるので。
さあ……どうする?
ブラケル……!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます