第83話 私は最強の魔法使いだ!

「……面白い。ならば比べてみるとしようか。今度は真剣にやろう」


 詠唱速度でエリオスに負けた。

 それがブラケルの自尊心を傷つけたようだ。


「エアイー ギフエンス イグロス」


 魔力魔法第7位階の「飛行」

 それを疾走しながら唱え終え。


 ブラケルは舞い上がった。


 そして天井付近まで浮かび上がり。

 そこで詠唱を開始する。


 詠唱を邪魔されない状況。

 それを作るためか。

 飛行の魔法は。


「デミウルゴス ギフエンス ローミル……」


 今度は法力魔法第9位階。

「神の槍」の魔法。


 神の力を借りて創造した光の槍を投げつける単体攻撃魔法。


 本来は、創造神に対して祈りを捧げ、その力を借りる魔法なのだが。

 ブラケルの魔法は、その魔法語の構文での創造神の部分が、邪神の名前に置き換わっている。


 そして半ばまで詠唱が進んだとき。


「サラウム ギフエンス ローミル ジャベル カシナート!」


 ……後追いではじめた、エリオスの魔法詠唱が先に終わった。

 唱えたのは勿論、同じ「神の槍」


 先に詠唱を終えたエリオスは、その右手を高く掲げる。

 その掌の上に出現した光の槍。


 彼はそれを発射した。

 その手を大きく振ることで。


 光の槍は投げ槍となり、ブラケルに向かって解き放たれる。


 一瞬遅く詠唱を終えたブラケルも、同じく投擲動作に入るのだけど、間に合わず槍に肩を貫かれ、魔法を中断させられた。


「……やはり僕の方が速いですね。どうしました……? 格の違いを教えてくれるんでしょう?」


 そしてエリオスは冷笑を浮かべた。


 これは……


 ブラケルは、魔法に絶対の自信を持っていたはずだ。

 それを、正面から上回って見せた。


 ……使用回数を考慮に入れたら、最終的に負けるのはエリオスなんだけど。

 純粋に魔法使いとしての実力の比較では、勝者はエリオスだ。


 ブラケルは呆然としていた。


 ……多分、魔法使いとしての実力で負けたことが今まで無かったんだろう。


 これが……勝ち続けて来た天才が、それ以上の天才に初めて負けた顔か……。


 はじめて見たよ。

 まあ、そんな状況、そうそう無いんだけど。


 ブラケルは宙に浮いたまま呆然とした表情のまま震えていた。

 自分こそ史上最強の魔法使い。


 その自負が木っ端微塵に打ち砕かれた。


 そして……


 その呆然とした表情が……


 別のものに変わった。


 それは……


 憎悪と……嫉妬。


 凄まじい表情だった。

 同じ表情を見たことが俺は無かった。


「……ダイワール リビルド アイアー ルゼオース」


 くるり、くるりと天井付近を飛び回りながら。


 ブラケルは魔法詠唱する。

 唱えた魔法は……法力魔法「全快」


 そして彼は「神の槍」で負った傷を完全に癒した。


 肩に開いた大穴が、時間の逆回しをするように治っていく。


 完全体に立ち戻るブラケル。


「……私は最強の魔法使い。伝説に残る、な……」


 それ自体が呪文のように。

 そんな事実に基づかないことを呟く。


「よほど辛かったんですね……自分が1番じゃないのが」


 エリオスがそう、労わる声音で言った。


 ……煽りがすごいな。

 全く煽る響きは無いんだけど。


 だが、それはブラケルに深く、深く刺さったらしい。


 一瞬で、ブラケルの顏が鬼に変わった。


 彼は……両手で印を組んだんだ。


 そして……


「マナ エアイーラズ……」


 唱え始めた魔法詠唱。

 それを俺は知っている。

 俺は青ざめた。


 これは……


 魔力魔法最終位階の「閃光業火」の魔法詠唱……!

 喰らえば最後、どのような手段を用いても絶対に死を回避できない究極の攻撃魔法だ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る