2章:続くはずだった日常
第11話 仕事が楽しくないんだよね
「聞いてますか!? タケミさん! 女は信用ならないんです! 奴らはその本性は全員が黒属性です! 属性石が白を示しても、そんなのはまやかし!」
……俺が過去回想を一通り終えたとき。
エリオスはそう、ガンギマリの表情で、女への呪詛を吐き続けていた。
……こいつ、ハイスペ男子なのに、一生結婚出来なさそうだな。
もったいねぇ。
俺は彼の惨状を見ながら、彼の不幸を憐れんでしまう。
……ミナと付き合って無ければ、こうはなってないんだよな。コイツ。
「自分の利益が最大値になることしか頭にない! 義理人情なんて奴らには通用しない! ゴブリンと一緒! だから僕は、奴らの悪行が通用しない世の中を作る! だから今、勉強してるんです! 科挙に
……うわー……。
こいつ、頭の性能は恐ろしく良いからな。
だから16才で司祭で、しかも全ての魔法を習得するなんて状況なんだが。
やりかねないのが怖いよ。
……ミナ……アンタ、とんでもないモンスターを生み出してしまったな。
罪深いよ。オマエ……!
オマエは貴重な才能をひとつ潰したんだ……!
俺はそう思いつつ
「……まあ、勉強は素晴らしいことだから頑張ってくれ」
そんな彼に掛ける言葉が無いので、とりあえず彼の努力を誉めてお茶を濁した。
彼はそんな俺にお構いなしに、どれだけ女が最低か自説を述べまくってきた。
……そんな話を30分ほど聞かされて。
「……とまあ、奴らは恐怖で縛るしか無いって、先人も言ってるんですよね。最後に行きつく結論はそれなんですよね。結局のところ」
だいぶ吐き出したのか。
表情はだいぶ穏やかになっている。
俺はそうか。と言いつつ。
「ちょっと急いでるんだ……悪いな。今日は助かった。ありがとう」
礼を言って、席を立つ。
エリオスは名残惜しそうに「また鑑定がご入用なら受けますから」と言って見送ってくれた。
さて……
……アシハラ商店でリンと待ち合わせだけど。
女の悪口を散々聞かされた後だと、ちょっとまずい気がする。
仕事上の頼れる相棒との仲が壊れるのはいかんだろ。
……ちょっと、別の店で軽く飲んでから出向こう。
「いらっしゃい」
「オジさん、いつものセットで」
「あいよ」
冒険者の店の近くの。安い立ち飲み屋で、俺は米酒とエイヒレを注文した。
……米酒はさ、俺の先祖の出身地が発祥の酒なのよ。
だからまあ、そこそこ思い入れがある。
とっくりと御猪口、焼いたエイのヒレが出て来た。
早速、一杯を始める。
……硬いアテを噛むと、そこに意識が行くのでイライラが収まっていく。
アテを噛みながら、飲み込む。
酒と一緒に。
……美味い。
そこにだ。
「タケミ、おひさ」
……後ろから女の声。
振り向くと。
ケットシーの女盗賊。
タマミだった。
「……最下層探索、いけてるんだ」
俺の噂を色々聞いてんのかね。
たった1人で最下層に潜って、毎回それなりに宝物を持って帰って来るヤツが居て、それが俺だって。
「うん。意外に行けるみたいだ。やってみたら」
とりあえずそう答えておく。
本当は、リンに助けて貰ってるから出来てるんだけど。
「……タマミはさぁ……」
そう言って、タマミは近況報告を開始した。
どうもタマミは、最下層に潜れるパーティで、盗賊に難があるところにサポート要員として雇われ参加して。
罠鑑定、罠解除。そしてボウガンを使った、麻酔薬を塗ったボルトでの援護射撃で仕事して。
分け前を貰って、それなりに楽しく生活しているらしい。
だけど……
「仕事が楽しくないんだよね……」
そう、寂しそうに、懐かしそうに言う。
曰く、実力が足りないんだそうだ。
ちょっと強そうな相手だったら、逃げを打つ選択を簡単に取り過ぎというか。
俺たちの場合なら、ちょっと踏ん張って最終的に倒していたような相手でも。
安牌ばっかり打ってる気がする。
それが彼女の評価。
「ハラハラ、ワクワクしない。これはしんどい。タマミはお金が大好きだと思ってたけど……それと同じくらい、ハラハラドキドキが好きだったんだなぁ、って気づいちゃった」
……なるほど。
コイツ、快楽主義者だと思うし。
「そういうこともあるかもな」
言いながら、俺は酒を飲み干した。
そんな俺に
「……でさ、ムシが良いと思うんだけど……タマミも一緒にさせて欲しいなぁ、って」
モジモジしながら。
え?
……えーと……
俺はしばらく考える。
タマミの最下層迷宮探索参加表明。
これはさ、許されるなら願っても無いこと。
こいつ、盗賊としてはメッチャ有能だし。
是非欲しい。
……だけど
(今の俺には、リンが居るし)
これがな。
マズい。
リンはまあ、恋人では無いにしろ、今は相棒として信頼し合う仲だし。
彼女を切るのは選択として無い。
実利的にもそうだけど、道義的にも。
……こいつの属性は「灰色」
属性的には、白と黒、両方と共存できる属性だけどさ。
俺とリンが迷宮内で待ち合わせて、一緒に活動しているって事実。
これがバレるのは違うだろ。
彼女の口から、俺がやってることがバレるかもしれない。
それはマズいよな。
だから
「……黒パーティの連中はどうなの? 入る隙無いの?」
黒パーティ……無論、あいつらのことだ。
元仲間のミナが現在所属しているあのパーティ。
あいつらの仲間になる気は無いのか?
それを訊いてみた。
あいつらなら戦いには意欲的なはずだし、タマミの指摘した問題点はクリアできるだろ。
まぁ、ちょっと癪だけどな。
すると
「……さすがにいくらお金大好きタマミさんでも、前の居心地のいいあのパーティをツブした奴らと一緒に仕事はできないよ」
……少しふくれっ面でそう返された。
失言だったようだ。
だから俺は、誠心誠意彼女に謝った。
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