第12話 稼ぎの山分けをしながら
「ええと……買取金額しめて12万3400ゴルドになります」
アシハラ商店で。
鑑定して貰ったものを纏めて売り払った。
今日の戦利品に、手元に置いておきたいものはひとつも無かったからだ。
12万3400ゴルドね……一般人の年収を軽く上回る金額……。
その額に相当する、金貨と銀貨、銅貨の山を受け取る。
これが最下層の稼ぎというものだよ。
「またお願いしますね」
ドワーフの店主はニコニコ顔。
俺には要らないものだったけど、店主的には掘り出し物だったんだろうな。
俺は店の中を見回す。
鎧やら、剣やら、使い方の良く分からない物品やら。
そういうものが所狭しと置かれている。
足の踏み場も無い、と言いたくなるレベルの置き方なんだけど、歩くスペースはギリ確保されている。
一歩間違うと、ゴミ屋敷。
それを見て思うのは
……一杯あるなぁ。
これだ。
この中に、俺が売ったものがいくつあるんだろうか?
……駆け出しの冒険者で、俺が売った宝物に憧れの目を向けて。
それを貯金していつか買うことを夢見てるヤツも無論いるはずだ。
高価な、強力な武器ってのは、それだけで夢なんだよね。
そういう夢を俺が作ったのか、と思うと、ちょっと誇らしい。
……さて。
外で、リンが待ってるはずだから。
外に出なきゃな。
「じゃあ、また潜ったら来るから」
店主にそう挨拶して
「まいどあり」
店主の声を背中で聞いて
俺は店を出た。
「タケミさん」
店を出るなり。
可憐なエルフ娘に声を掛けられる。
白と緑の色の村娘風衣装。
胴回りに緑色の厚手の生地。
他が白。
スカートはフレアスカート風で、胸元が開いてて、胸の谷間がちょっと見えている。
まあ、よくある服だ。
……忍者の黒装束のときの姿と比較すると、別人に見えるんだよね。
ちゃんと化粧もしてるし。
……念には念を入れている。
村娘設定だから、属性石は外している。
なので、この状況で俺が黒と交流持ってると思うヤツはいまい。
「じゃあ、行こうか」
……白状すると、結構ドキドキした。
単なる美人エルフ娘とデートしてるような感覚だからな。
実際は、単に稼いだお金の山分け相談なんだけど。
「私の取り分が6万3400ゴルドで……タケミが6万……」
同伴喫茶。
恋人同士が入って、中で性的にイチャイチャするための喫茶店なんだけど。
他人の目が無いからね。
お金の話をするのにはちょうどいいんだ。
完全密室になった2人部屋で、注文した果汁をテーブルに。
そのテーブルの上で金貨の袋の中身をぶちまけて、彼女と2等分していた。
……銅貨と銀貨の袋は無条件に彼女のもの。
「……いつも思うんだけど、万未満のお金が全部私で本当に良いの?」
「別に、本来は稼ぎが万行くだけで大金なんだから、気にしないで良いんだよ」
万未満もキッチリ分けると、銀貨銅貨を数えるのが面倒なんだ。
金貨だけで完結する、万以上で分けるのが一番楽。
……正直、俺は木賃宿に泊ってるから、生活費もあまり掛かってないんだよね。
たまにちょっと飲むときに使うだけで、お金殆ど使わないから。
だから正直、はした金に興味は無い。
ちなみに……使って無いのは全部銀行屋に預けて貯金してる。
いつまでもやれる仕事じゃ無いしね。冒険者。
そこで
「……なあ」
俺の目の前で、金貨と銀貨と銅貨の袋を鞄に仕舞っているリンに、今ちょっと気になったことを訊いてみた。
「リンって、宿は何を使ってんの?」
「……ロイヤルスイート」
……女は皆こうなのか。
そういや、タマミのやつもそうだったな。
あいつも、宿に使ってる部屋はロイヤルスイートだった。
お金があったらあるだけ使う。
これ、女のデフォなの……?
エンジュはどうなんだろうか……?
アイツの場合は、なんかロイヤルスイート顔じゃないんだよなぁ……。
「ロイヤルスイートに泊っておかないと、仕事で討ち死にしたときに後悔があるかもしれないでしょ」
……俺が変な顔をしていたのか。
リンが追加で、何故ロイヤルスイートなのかを語って来た。
彼女なりに部屋には思い入れがあるみたい。
で、だいぶ語ってから。
テーブルの上に両手を置いて。
……彼女がまっすぐに、じっと俺を見つめて来た。
その神秘的なグリーンの瞳で。
……正直、何度見ても綺麗だし。
彼女が黒じゃ無ければ、口説くことを頭の中で検討するんだけどなぁ。
……彼女を口説いて、自分の恋人にする。
仮にそれが成功したとして
頭に過るのは……ミナ。
アイツ……元々皆の注目を浴びる職業である聖騎士だったから。
黒反転して、黒パーティの一員になったことをだいぶ叩かれててさ……。
……暗黒騎士だとか、性騎士だとか呼ばれてんの。
まあ、アイツの選択の結果で、アイツの自業自得だから全く気の毒だとは思わんけど。
だから同じように
リンが俺の恋人になったとして。俺も影響を受けて黒反転してしまったら。
……ミナほどではないだろうけど、俺も叩かれるんだろうな。
……それはまずい。困る。
だから、できねぇ……こんなに綺麗で可愛いのに……
そんなことを考えていたら。
「ねぇ、タケミ」
ズッと。
彼女が俺に顔を近づけて来たんだ。
……な、何?
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