第13話 魔人の宝箱
何だ……?
リン、俺に近づいて……
距離が近い。
ドキドキしてくる。
すごく良い香りもしてきた。
……さっきも言ったけど、彼女はナシではないんよね。
諸事情で踏みとどまってるだけで。
何をされるのか、しようとしているのか。
予想がつかなくて、俺は混乱した。
すると
「着替える前にちょっとだけ酒場に寄ったのよ」
酒場、つまりイコール冒険者の店。
何の用事かといえば、無論依頼の確認だろうね。
商売人や職人からの素材狩りの依頼だとか。
迷宮に誰か迷い込んだから助けて欲しいとか。
そしてたまに、珍しい武具の探索依頼。
……美味しい依頼があるなら、受けとかないと損だものな。
「……それで?」
話の先が読めない。
だから先を促す。
すると、彼女は……声を潜めて俺の耳元でこう囁く
「最下層で、宝物部屋で魔人ヨシツネに出会って、逃げ帰ったって言ってるパーティが居たのよね」
その瞬間俺の、彼女の魅力のせいで混乱していた脳みそが一気に覚醒した。
……マジか!?
魔人とは?
それは、大昔の人間の影だ。
偉大過ぎる人間が、死後その存在の大きさ故に、その全盛期の姿が魔物になったもの。
分類としては精霊に近い。
間違えている人が結構多いんだが、本人では無いので幽霊では無いんだ。
主に、一部の魔術師が召喚して使役する場合が多い。
呼ぶことに特殊な条件がたくさん要求されるので、あまり一般化はしてないみたいだが。
魔人ヨシツネ……侍の開祖と言われる伝説的侍の魔人だ。
その生前の出自は謎が多く、何故か幼少期の伝承が一切ない。
急に現れて、その素早い身のこなしで戦場で大活躍。
彼の強さに憧れた戦士たちの中で、才能があるものが彼の戦い方を真似たのが、侍という職業の始まりだ。
……話をちょっと戻す。
その魔人ヨシツネが宝箱を守っている部屋があった。
これが何を意味するのか?
「……是非その宝箱を開けてみたい。中に無双正宗が入ってるかもしれない」
これなんだ。
……いやね。
これは俗説なんだけどさ。
魔界の穴の迷宮で。
魔人が守っている宝箱には、神器が眠っている。
そういう噂があるんだな。
……検証した人はいないんだけど……ありそうな話だろ?
だから、信じてる人の多い噂だ。
ちなみに俺も半分以上信じてる。
魔人ヨシツネだったら……これはもう、無双正宗しか無いよな。
取らなきゃ……取らなきゃ……!
俺のその、無双正宗熱に燃えた表情が嬉しいのか、リンが
「……教えた甲斐があったわ。じゃあ、早速明日また潜ろうね。早く行かないと、誰かがヨシツネを倒してしまうかもしれないし」
すごく嬉しそうな顔で微笑んでくれた。
俺は、彼女のそんな顔をしばし見つめて。
ふとそこで、大事なことを訊き忘れていることを思い出す。
だから訊いた。
「ちなみにどの部屋か分かってんの!?」
大事な情報。一番を目指すには必須。
すると彼女は
「大体当たりはつけてる。外れたらゴメンね」
そう言い、ペロッと舌を出した。
うん。可愛いし加えて持ってきてくれた情報が大きいからちょっと間違ってても許す!(我ながら何様だ)
その日の晩、ガキみたいに興奮して、眠るのに苦労した。
借りている、殺風景な木賃宿の部屋で、せんべい布団で横になり。
一生懸命眠った。
……こんなことは久しぶり。
冒険者の必須技能なんだけどな。
どこでも熟睡できますよ、というのは。
……眠らないと魔法の使用回数が回復しないから。
絶対に寝ないとな……
眠るために、俺は魔法の基本ルールを頭の中で考えた。
魔法の使用回数というのは、魔力法力両方とも、全体で10の位階に分かれている。
そして、その位階それぞれに使用回数が設定されており、その使用回数は修練により、それぞれ最大で9回まで使えるようになるのだ。
ちなみに。
この使用回数は、使用しても眠ることで回復する。
その長さはおよそ6時間。それだけ寝たら完全回復。
ただし。
この眠りは、迷宮のような絶対の安全が保障されない環境では意味が無い。
なので、迷宮内でキャンプを張ったときに仮眠をするような眠りでは無理なのだ。
だから、ここで眠れず睡眠不足は明日のヨシツネ戦に確実に響く。
寝なきゃ……
それでも。
なかなか寝付けなくて俺は焦り。
気を紛らわす別の方法を考案した。それは……
魔人を数える……
ヨシツネ、ランスロット、ハンゾウ、ソロモン、アルセーヌ……
ZZZZ……
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