第10話 最高に組みたい相手
「いや、お礼は別に良いから。あれは助けるのが人の道だからやっただけだし」
言って、エルフ女をやんわりと引き剥がす。
「いえ、助けて貰っておいて、何もお礼も感謝もしないなんてそれこそ人の道に反するでしょう!」
エルフ女はちょっと必死気味で俺にそう訴える。
……黒って、まあ感情に正直な性質のことだからな。
彼女の言ってることは別におかしくは無いんだけどさ。
自分のピンチを救ってくれた相手に、何の礼もしないで平気でいられるって、それは人間としておかしいんだし。
黒だから人格破綻者であるということじゃないんだよ。
……無論、人格者であるという意味でも無いんだけどな。
「何かありませんか!? 私にできることだったら何でもさせて貰います!」
……女のエルフ忍者にそんなことを言われた。
ちょっとだけ、モジモジされながら。
……まあ、多分間違いなく「お礼はキミの身体で」を言われることは予想してるよな。
別に自惚れでもなんでもない。
一般的以上の容姿の女なら、男相手にこれを言ったらそれが返ってくることは予想はするだろ普通。
タダで普通以上の女を抱けるなら、貰えるものは貰っておくって感覚で行くヤツはざらに居る。
で……
問題の彼女は、普通以上どころの話じゃ無くて。
かなりの美人だった。
エルフであるということを考慮に入れても。
肩に触れないあたりで切り揃えた金髪は髪質が良かったし。
緑色の瞳は神秘的。
繊細で長い目が上品で。
鼻筋も唇も、形が整っている。
……顔のレベルの高さは以上の様な感じで、身体の方もさ。
スレンダー美体型、って言って問題ない。
さっき逆さづりにされてたときの記憶を辿ると、胸の大きさもそこそこあった。
……だからまあ、お礼として身体を差し出されても別に自惚れでは全然無い。
まあ、それでも要らんけどな。
俺は。
そういう方式で女性を抱くのは俺の趣味では無いので。
とはいえ
……何も要らないわけじゃないけど。
俺が欲しかったのはそれじゃない。
それは……
「だったら、俺と一緒に最下層について来てくれる?」
忍者は多芸。
特に、俺の一番の懸念、宝箱問題に対処してくれるというのがデカかった。
……現状だと、罠にミミックと石弓の矢、爆弾なんかが出ない限り、危なくて宝箱に挑めないし。
それらは、耐えたり、襲ってくる前に殺したら解除できるからさ。
宝箱の罠にはさ……魔法使い限定で麻痺させたり、石化を引き起こしたり、即死を招く事態を引き起こしたり。
危険なものがわんさとある。それが最下層となればもう、もはや必然だよ。
……だからすごく欲しいんだ。
宝箱係。
……俺の元のパーティだと、タマミがそうだったんだよな。
彼女の手際は素晴らしかった。
ミスをしているところ、1回も見たことが無いんだよな。
……できれば組みたかったけど、俺が1人で最下層に潜ると言い出しても、1回止めたっきりで「タマミも潜る!」とは言ってくれなかったんだよな。
彼女は浪費家で、貯金する習性の無い女だったから、内心「飛びついてついて来てくれるかも」って、期待してたんだけどさ。
さすがに、無理か……。
そう思い、諦めて。
俺は罠を魔法で見抜くことができるから、それで自分にも対処できる都合のいい罠だったら、ダメージ覚悟でそのまま開ける。
これで行こう。そう思っていたんだ。
そこにこの、女忍者。
ついて来てくれるならすごくありがたい。
……でも、無理だよな。
最下層だよ? 一流の冒険者が、生死を賭けて戦って、お金を稼ぐ場所だよ?
そこにたった2人で挑むなんて……
すると彼女は周囲を見回しながら
「えーと、他にお仲間は?」
……ほら来た。
当たり前だけど。
最下層に1人で潜るという、無謀なことをしようとしてるなんて、普通想像しないもんな。
でも、嘘を言うわけにはいかないから
「いないよ。俺1人」
ハッキリ正直に言った。
ここで嘘を言うのは絶対に違う。
すると
「分かりました!」
彼女は明るい声であっけらかんといった感じで答えた。
ごめんなさい、だろ?
そう、予想をしつつ続きを聞いたら
「行きましょう!」
……は?
最初、俺の方が理解できなかったよ。
その後ちょっとだけ慌てた。
俺の方が。
キミは最下層の怖さを知らないのか、とか。
キミは初心者なのか、とか。
すると
「まだ迷宮経験は浅いですけど、忍者の修練は20年以上積んでますから大丈夫です」
「私、強い相手をまとめて倒す修行をすることを目的に迷宮に潜ってるんですよね」
……だって。
彼女は彼女で、最下層に潜ることに意味があるらしい。
なので、相互に名乗り合って自己紹介した後、一緒に潜ってみたら。
……彼女、リンフィルトは……超有能だった。
彼女の扱う武器「ミスリル銀製金属糸・十束剣」
その威力はすさまじく、グレーターデーモン程度なら一方的に斬り刻んで仕留めてしまえる。
一定以上の硬さがある魔物には通じないらしいんだけど、そういうのは俺が相手をすればいいわけで。
最下層ともなると、雑魚でも侮れないからね……超助かる。
何せ「何で十束剣って言うと思います……? 同時に10体の敵を倒せるからですよ! まるで10本の剣があるみたいに!」って、ドヤ顔で言われたからな。
ジャイアントマンティスの大群を片っ端から首ちょんぱしつつ。
で、宝箱は。
罠の鑑定が自信ないらしいので、そこだけ代わると、解除の方はしてくれるし。
ただまぁ「罠にテレポーターが出たら諦めて下さい。解除失敗したら高確率で死んでしまう罠はさすがに自信がありません」って言われたけど。
あと、薬の知識と法力魔法。
……法力魔法は正直驚いた。
なんで使えるんだよと思ったけど。
「私、忍者になる前に神官してたんですよ」
って笑顔で言われた。
……俺が欲しかった技能、全部持ってた。
こんな相手、是非組みたいに決まってる。
だから、その日の仕事が終わったときに言ったよ。
「……あのさ。リンフィルト……できればでいいんだけど……これからも一緒に組まない?」
そう、断られるかもな。俺は白なんだから。
そう思いつつ、ワンチャンを期待して訊いたら
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますねタケミさん」
そう、笑顔で言われて。
握手を求められた。
だから俺は
「ありがとう。よろしく」
そう言って、その手を握り返したんだ……。
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