第49話 おやっさんとの呑み会

「なかなか広いのぅ」


「確かに。2人では広いくらいだな」


 ……俺たちはお屋敷の中に来ている。

 あの、「絵の屋敷」の中だ。


 ……休憩しようという話になった。

 2人ずつ、1日ずつ。

 1日=1分だから、計3分の休憩だ。


 魔法、使いまくったからね。

 ギリメカラに。


 ちなみに組み合わせはこんな感じ。


 俺、おやっさん。


 ミナ、エンジュ。


 リン、タマミ。


 ……ミナの話をエンジュは聞きまくるつもりなんだろうなぁ。

 それはまあ、予想はつく。


 4柱の邪神の正体を1日掛けてじっくり考えて貰うためには、この組み合わせがベストだろ。


 まあ、それはそれとして。

 ……睡眠時間は6時間取れば良いわけだから。


 自由時間が18時間あるわけだよな。


 だから


「おやっさん」


 広めのリビングやら、食糧庫の様子を見て回っているおやっさんに、俺はこう声を掛けた。


「呑もう」


 ……このために、俺は酒瓶を1つ、エンジュの無限背負い袋に入れさせて貰ってたんだよね。

 泥酔するかもしれんから、加減して飲まないといけないけどね。


 ドワーフの火酒。




 一応テーブルあるけど。

 床で良いだろ。


 板間の床に杯を2つ置いて。

 呑むことになった。


「……もう3か月ぶりかのう。懐かしい」


「だいぶ経ったよな。……ここの迷宮に来るまで、ずっと一緒に組んでたのに」


 ……俺が最初に組んだ相手は、エリオス。

 エリオスは……あいつも二世なんだよな。ある意味。

 あいつは魔術師の父と神官の母の間に生まれた男子で。

 両親から魔力魔法、法力魔法の手解き、指導を受けていて。


「一人前のマジックユーザーとしてやっていくために、冒険者をして鍛えてるんです」


 そんなことを、初めて会ったときに言っていた。

 俺はヒーラーが欲しかったし、雑魚散らしの意味で魔法攻撃の専門家も欲しかったから。

 俺から誘って、組んだんだ。


 その後、エンジュとおやっさんのコンビに出会って。

 4人になった。


 そしてしばらく組んだ後。

 最後に来たのがこの魔界の穴だ。


 魔界の穴に挑むために盗賊を探し、加入して貰った。

 それがタマミ。


 彼女は元々フリーで、助っ人でパーティー参加して稼いでた冒険者。


「……タケミと似た名前なのが気になるわ。改名せえへん?」


 そんなことを、冗談でタマミに言っていたのを思い出す。


 ……で。

 最後の1人を「上級職前衛、属性は白か灰色」という縛りで募集したら……


「私、ミナと申します。最高の盾として皆様に確実なお仕事を提供致しますわ」


 来たのが、ミナ。

 職業は聖騎士。

 ……俺たちに足りないものを持ってる前衛。

 これは当たりを引いた。


 ……あのときは、まさかこんな事態が来るとは思って無かったな。

 懐かしいし、色々複雑だよ……


「……で、タケミよ」


 火酒の杯を空けながら、おやっさんは


「お前、そろそろ結婚した方が良いぞ?」


 ……そんなことを言われた。




「ドワーフは寿命300年で、子供を作れる期間が200年近くあるからのう」


 新しい酒を杯に注ぎつつ。

 また口を付けて


「しかし、ヒュームはそうではあるまい? 老いるのが早いからの」


 ……おやっさんも、エンジュも子供いるんだよな。

 しかも、すでに独立してる。


 おやっさんはドワーフの坑道に住んでいたとき。

 適齢期に入ったらさっさと結婚して、3人育て上げて「義務は果たした」と、坑道を飛び出したらしいし。


 エンジュはノームの習性で、ノームの婚姻場に適齢期に入ったら参加して。

 気の合いそうな相手とテキトーに作ったと言っていた。


 ……ノームは他の人間種族と違って、貞操観念っていう文化が無いんよな。

 結婚の文化も無い。

 寝取りという概念も無いらしい。

 女が関係人数を増やすと、家族の数が増えていく。

 気が合う異性が居たら即子作りして、産まれた子供が育ったらその関係は解消。

 ちなみに10才くらいで一人前らしい。ノームでは。


 エンジュは学者だから、他の種族の自分たちとは違う、そういう概念の存在は理解してて。

 嫌悪感持たれるとマズイと思ってか、そういう発言はしないけど。


 本音で言えば、わからんそーだ。

 何でエリオスがショックを受けたのかは。

 無論、知識としては理解しているけど。


「……まぁ、いつかは結婚はしたいさ」


 生き残ればな。という枕詞はつくけどな、と心で付け加える。

 そして俺もちょっとだけ火酒を飲む。


 喉を通すと、強いアルコールが喉を焼き、芳醇な香りが鼻に抜けていく。

 刺激と味、そして香り。

 美味いな。これはこれで。


「……まさかとは思うが、あのエルフの忍者娘を狙っとるのか?」


 するといきなり、酒を吐き出しそうなことを言われてしまう。

 ちょうど、もう一口啜ろうとしていたときだったから。


 口に含んだものを飲み下し、俺は答える。


「……分からん。ただ、可愛いと思うことは良くあるよ」


 ……これが俺の正直な気持ち。


 まあ、こんなのは。

 相手の要ることだから、俺だけの想いでなんとかなるもんじゃないんだけど。


「ヒュームとエルフの妊娠率は低いらしいな。エンジュが言っておったが」


「知ってるよそんなことは」


 おやっさんと一緒に、火酒を呑む。

 ペースがなんだか上がって来た。


 まずいかも。


「リンの気持ちの問題があるだろ。そんなことに気を回してどうすんだ」


 ……ヒートアップしてきて、俺はそう多少声を荒げて応えてしまった。

 するとおやっさんが


「ああ、ちょっと踏み込み過ぎたの。……ワシとしては、気になったんじゃ」


 あんまりハッキリは言わなかったけど。

 親の立場が理解できる身として、俺の子供ができないのが気になったのかね。


 ……余計なお世話だ。

 とは、ちょっと言えないところはあるよな……


 ……頭の中がごちゃごちゃしてきた。

 俺はまた、飲み干して火酒の杯を空にした。

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