第80話 新生魔王ブラケル

「最期の食事にならんようにしような」


 おやっさんは絵の屋敷の中で、大量のティーレックスの肉を消費したらしい。

 まあ、消費しておかないと義理が立たないしありがたい。


 ……結局、グレムリン対策でゲットした肉だけど。

 出番は無かったな。


「ダラクデルグが大量に食うもんやから、無駄にならんで良かったわ」


 一緒に絵の屋敷に入ったエンジュが調理したみたいだ。

 エンジュにとってはおやっさんが最初の仲間だしな。

 そりゃ積もる話もあるよな。


「ああ、全く。俺だってここから先の人生を放棄するつもり無いし」


 おやっさんにそう返し


「殺した責任あるしな。少しは消費しないと駄目だし」


 エンジュにそう返した。


 ミナとタマミ、エリオスも休憩を済ませた。

 さあ……行くか。


「魔王の間の扉、罠無いよ」


 事前にすでにチェックを済ませたタマミの言葉。

 俺は頷き。


 扉に手を掛け


 押し開けた。


 ギギッ……




 その部屋は、広さは100平米。

 幅10メートルの正方形の部屋。

 天井の高さは8メートルくらい。


 ……まあ、この迷宮では普通の部屋だな。


 はじめて入る部屋だ。

 俺はな。


 ミナは……2回目か。


 奥には玉座がポツンとあり。


 そこに、1人の男が腰掛けていた。

 ……人間じゃない男だけどな。


 状況的に見て、こいつがブラケルか。




 顔面は美形男子。

 その顔つきには知性と、皮肉屋的な傲慢さが見えた。

 耳が少し長くて、尖ってる。

 ……ハーフエルフだからね。


 髪の毛は金髪で、長さは男として普通。

 長く無いし、短くも無い。


 ……これが宮廷魔術師ブラケルの顔面なんだな。


 で、その首から下が魔王の肉体。

 太い筋肉がついた、4本腕の逞しく、引き締まった成人男性の肉体。

 上半身は裸で、下半身に変形したローブみたいな衣装を身に付けている。

 肌の色は赤だ。


「……おお、刺客が来るの、わりに早かったな。とうとうここまで来たか」


 玉座で退屈してたのか、ブラケルは頬杖をついてずっと玉座に座っていたらしい。

 4本の腕の1つに、水晶玉を握っていたが。


 ……あれは噂に聞く「遠見の水晶玉」かな?

 望んだ場所の映像が見れるとかいう。


 それだけが娯楽だったのか。

 そりゃ、退屈だろうさ……。


 そんなことを思いながら


「どうもはじめまして……アンタを討ちに来た。タケミだ」


 挨拶はした方が良いな。


 仮にもこの国の先輩ではあるわけだし。


「……ふん」


 それが少しだけ、面白かったのか。

 小さく笑みを浮かべて彼は


「私はブラケル。この迷宮の創造主。……冥途の土産に、少しだけ会話に応じてやってもいいぞ?」


 そんなことを言い出した。




「……アンタはどうして欲しかったんだ? 謝って欲しかったのか?」


 だから俺は直球で聞いた。

 本丸を。


 内心、怒り出すかもしれないなと思いつつ。


 すると


「……謝罪? もう遅いわ。我が父を謀殺した王はすでに崩御している。それで済む段階は過ぎている」


 そう、冷笑を浮かべながら返して来た。

 俺は


「そうじゃない。その……当事者の王にだ」


 それに謀殺した、じゃない。

 謀殺を見抜けなかった、が正しい。


 ちなみに……当然だけど、彼が復讐しようと襲い掛かった当時の王と、自分の家臣に騙され無実のブラケルの父ブラーナをみすみす死なせた問題の王は違う。

 その間に100年経ってるからな。ヒュームの王にはその時間は君臨できる限界値を超えている。


 ……だから。

 事件から100年後、当事者の王の後継者になってた別の王にいきなり襲い掛かったんだ。

 この男は。


 するとブラケルは言ったよ。

 せせら笑いながら。


「そうだな。……その愚かさを、当時の王が命を持って償えば考えなくも無かったわ。無論、謀略に関わった人間の血筋を全て根絶やし……族滅した上で、だ」


 ……流石に、分かった。

 この男と会話による解決を図るのは絶対に無理なのだ、と。


 そんな謝罪、出来るわけがない。

 いくらなんでも。


 ……言っちゃなんだが。

 国民のひとりを間違って死なせた程度で、王が命で謝罪し、関係者の族滅まで行う。

 ……無理に決まってる。出来るわけがない。

 ありえない。


 だから……400年前に謀略を見抜けなかった時点でアウトだったんだ。


「……その400年前の王は、家臣の暴走を見抜けなかった最低の愚王としてアシハラ王国王家の戒めとして語り継がれているだけでは許せないか?」


 無駄だと思いつつ、彼にそう告げた。

 すると


「知るか。もはや滅亡以外の解決手段は存在せん」


 皮肉な笑みを口元に浮かべ。

 ブラケルはそう返した。


「……たった1回のミスで、死後も永久に愚か者の烙印を押され続ける400年前の王様の気持ちに寄り添う気は無いんやな。これっぽっちも」


 傍で聞いていたエンジュがそう言った。

 普通に考えれば、王としての最大限の反省だろ。


 でも……彼にはそれは通じない。


「寄り添ったさ。……自発的にその選択をする時間を与えただろうが」


 口調は穏やか。

 だけど……その声には、深い憎しみが込められていた。


「……逆にお前たちが私に寄り添え! お前たちに分かるか!? 父を下らぬ疑心暗鬼で謀殺した相手に、禄を与えられ生きる屈辱が! 私はすぐにでも思い知らせてやりたかったが、私には年老いた母がいた! だから100年間身動きが取れなかった! 100年だ! 100年もあったのに、私たちに一切の謝罪をせず、のうのうと存在し続けたアシハラ王国……もう、滅亡させるしか無いな!」


 ……話にならないな。


「……素手で殴られた恨みに、剣を抜いて斬り掛かって来るようなモンの気持ちには寄り添えんわ。悪いけど」


 エンジュの言葉。


「……ノーム風情が何をぬかす。寿命200年程度しかない下等種族の分際で」


 そのエンジュに、せせら笑いを浮かべて冷え切った言葉を投げかけるブラケル。


 それに俺は思わず言っていた。


「……アンタの姿を見たら、アンタの父親のブラーナは泣くだろうな」


 別に挑発してるわけじゃない。

 本音だ。


 ……俺もこれから父親になるんだ。

 ハーフエルフの子の、だ。


 だから……思わず言ってしまった。


 だけど……


 その瞬間、ブラケルの顏から表情が消えたんだ。


「……ほざいたな? お前たちが我が父上を語るな……!」


 ブラケルの声が絶対零度の冷たさを帯びていた。

 どうやら、俺の一言は彼の逆鱗に触れたようだ。


「……話は終わりだ。来い……格の違いを教えてくれるわ」


 ブラケルは、ゆらりとその玉座から立ち上がり。


 その4本の腕で印を結んだんだ。

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