第81話 無限復活の真実
「エアイー タベント ヘライート」
最初にブラケルが詠唱したのは。
魔力魔法「高速化」
直後に、まず斬り掛かったミナのヴァルキリーソードの斬撃を躱す。
動く速度の倍速化。
その効果はえげつない。
どうえげつないかは、以前エリオスが同じ魔法を使ったときに言ったと思うけど。
エリオスみたいな頭脳派でも、俺が走力で敵わなくなるんだ。
倍の速度で動けるという意味は厄介なんだよ。
「アレーズ ティング ジーオ」
そして躱しざま、ブラケルは右腕のひとつをミナに向けて、法力魔法の「波動」を放つ。
その掌から放射される力の波動。
ミナはギョッとしたみたいだが、とっさに金剛石の盾を構え、それを受け止めた。
その波動は、ミナを吹き飛ばさんばかりに打ち据えてくる。
……ちょっと待て。
こいつ、ミナの攻撃を回避しながら魔法を使った。
つまり、回避行動を取りながら魔法を使ったんだ。
普通、魔法を使う際はかなりの精神集中が伴うので、回避行動は取れない。
ゆっくり移動するのが精一杯だ。
それなのにこいつは……普通に移動しながら、回避を行いながら魔法を使った。
つまりこいつは……全くペナルティなしで魔法の詠唱が行える!
「……私をそこらの
ブラケルは残酷な笑みを浮かべる。
「このブラケル、宮廷魔術師に上り詰めたのは実力であり、紛れも無い最強の魔法使いである!」
魔族って、魔法の使用回数に制限無かったんだっけか。
それとも、それは魔王の特殊能力か。
ブラケルは牽制を打つ感覚で、各種魔法を放ってくるんだ。
「ハリ ムドーラ マハル ジーオ」
ブラケルの目の前に、直径が50センチを超える、冗談みたいに馬鹿でかい火球が出現し。
それが俺たちの方に向けて放たれる。
魔力魔法「火球爆裂」
……こんなことを、高速で動きながら乱発してくる。
とんでもねぇ。
着弾し、破裂する火球。
周辺に大炎をまき散らす。
……俺の火球爆裂とは比較にならない高威力。
「……なんで300年もその姿になれなかった?」
魔法を回避しながら、俺はブラケルに会話を持ちかけた。
無論、魔法を使わせないためだ。
奴の自己顕示欲が刺激されて、自分語りをはじめたら、その間は魔法の攻撃が緩められるから。
すると……
「仕方あるまい。魔王の心が折れるのにそこまでかかったのだ」
優位に立つ者の余裕の態度。
斬り掛かるミナの攻撃を、余裕で躱しながら語り始めた。
やはり、こいつにとっても語りたいことだったのか。
奴は語り始めた。
魔王に掛けた無限復活の魔法は「無限に魂をこの迷宮に縛り付け、無限に蘇生させる魔法で。そしてその心が折れたとき、私にその全存在を捧げる内容」と。
無限復活。それについてはそんなことは知っている、と思ったが。
……冷静に考えると、魔王にとってみればただの地獄だ。
この一室から出られず、ただただ刺客を待ち受け、命を狙われ続ける。
それにだ。
本来の力じゃないらしいじゃないか。
その「復活魔王」ってのは。
「蘇生復活時には、本来の実力が出せないようにしたのもお前か?」
「無論だ。でなければ、魔王の地獄が形成できん」
……酷過ぎる。
つまり、魔王はこの部屋から出られず、本来の実力なら蹴散らせることができるような相手に倒され続ける状態だったと。
……魔族にも誇りはあるだろう。
屈辱があっただろうし、辛かっただろうさ。
そして300年後。
とうとう状況に耐えられず、その心が折れてしまった。
そしてそうなった瞬間、その全存在をブラケルに奪われる。
……少し、予想はしていたけど。
やっぱり、そういうことだったんだ。
「……酷いな。召喚主の最低限のモラルに抵触するんじゃ無いのか?」
「目的のためだ。仕方ないな」
俺の指摘に、ブラケルは酷薄な笑みで応えた。
悪魔召喚なんてしたことが無いから知らないが、普通に考えて相手の全存在を奪うために、その悪魔を召喚するという行為。
召喚自体が悪魔にとって避けられないものであるのなら、それはあまりにも酷い行為じゃ無いのか?
あまりにも酷い……卑怯で、残酷だ。
「魔王と同化すれば、魔法を無限に使うことができる。それは、空気中に存在する
やらない理由があるまい!
そう、笑みを貼り付けたまま言い放つ。
そのとき。
「エアイー タベント ヘライート」
……俺に、エリオスが高速化の魔法を掛けてくれた。
俺がブラケルに会話を仕掛けている間に、せっせとエリオスは前衛メンバーに支援魔法を配っていた。
俺とおやっさんには「高速化」
そしてミナには……「潜在能力解放」
……これで、こいつと戦える。
俺は無双正宗を構え直す。
正眼だ。
そんな俺を、ブラケルは余裕の表情を崩さずにただ、見つめていた。
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