第79話 エリオスの想い

 俺としては。

 気にはなっていた。


 エリオスが。


 エリオス……

 俺の一番古い仲間だけど。


 今、あいつは何を考えているんだろうか?


 ……リンと結ばれるときに、俺の頭の片隅で考えていたんだよな。

 この状況、エリオスはどう考えているんだろうか、ということを。


 リンと一緒に外に出て来て。

 俺は見つめた。


 魔王の間の扉の前で、じっと扉を見つめている彼を。


 ……どうする?

 報告するべきなんだろうか?


 リンとのことを。


 ……使命のためには、黙ってることが最善手よな。

 戦いに必要な情報じゃ無いんだから、入れない方が良い。

 だけどさ……


 仲間としてはどうなんだ?

 エリオスは俺の一番古い仲間だぞ……?


 そんな相手に、報告しないのか?

 人生でとても大きな決断をしたのに、その結果報告を?


 ……そんなのが……友人なのか?


 しばらく……考え、悩んだ。


 そして


「エリオス」


 近づき、その背に声を掛ける。

 彼は振り返る。


「タケミさん? 何ですか?」


 何か心にあるように見えない顔。

 真顔だ。


 ……エリオスが気づいてないはずがない。


 こいつ、頭がすごく良いしな。

 分からないはずが無いんだ。


 だから、知っててこの態度。


 そうに違いなんだよな。


 だったら、話しても問題ないのでは?

 そう思いがちだけど。


 察するのと、伝えられるのは違うだろ。


 ……すごい葛藤があった。


 リンも大事だけど、こいつだって大事だから。


 この一言で彼との関係が切れる……その可能性。

 当然あるさ。


 だけど……このまま何も言わずにリンと所帯を持つのは、こいつへの裏切りだ。

 そこは確信していた。


 なので


「……リンと俺、結婚する」


 報告は結論から。

 仕事での会話での基本だよ。


 色々聞かれるかもしれんけど。


 すると


「そうですか。おめでとうございます」


 微笑みながら、そう返して来た。


 ……え?


 ちょっとだけ、戸惑う。

 もうちょっと、何かあると思ったのに。


「えっと」


 ここで話を止めてしまうと、義を果たしたことにならない。

 そう思ったから、訊き返す。


「止めてしまえとか言わないのか?」


 だってリンは黒属性。

 それにお前は、女の権利を制限するために科挙を受験して役人になるって言ってたよな!?


 思い切りNGじゃないのか!?


 そう思ったんだけど


「……は?」


 困惑顔をされた。




「……結婚はタケミさんの人生の選択。言うわけないじゃないですか」


 穏やかに、エリオス。

 そんな彼に、俺は質問をぶつけてしまった。


 予想外だったので。


「どうせ痛い目を見るに違いないとか、そういうのは無いのか?」


「……もしそうなっても、それはタケミさんの自己責任ですよね?」


 あなたの選んだ女が、アレと同様のクソだったら、それに関して責任を取るのは選んだタケミさんですし。

 タケミさんは子供じゃ無いんですし、自分の選択に自分で責任くらい取れますよね?


 ……少し、冷たく感じてしまった俺は我侭なのだろうか?


 思わず


 それは俺の選択なんてどうでもいいってことか?

 そう言いそうになったけど


 そういえば……


 こいつ、ミナに惚れてミナを恋人にしたいと俺に打ち明けてきたとき。

 それに関して俺はゴーサインを出したんだけど。


 そのゴーサインについて「何故止めてくれなかった!?」って文句を言ってきたことは1回も無かったな。

 自分の選択に一応責任を取ってはいたんだよ。


 ただまぁ、ミナの本性を見抜けなかったことから「全ての女は疑って掛かるべき」という厄介な結論を出して来たわけだが。


 ……色々聞きたかったけど。

 足りないピースを埋めるのは、このことじゃないかと思ったから。


 俺は口に出した。


「……何で俺たちを助けに来たんだ? ミナが混じってるのに」




 その一言で、エリオスは不快そうな顔をした。

 で、しばらく沈黙し。


 答えてくれたよ。


「……僕一人の個人的好悪で、仲間を見捨てるってどうなんですかね?」


 それに、僕はこの国の生まれですし。

 タケミさんたちのパーティーが全滅したら、新生魔王の目論見が成就しますよ。

 それはつまり、この国を見捨てることと同義。


 最初の仲間と国を捨てる。


 それも自分の好悪が原因で。


 ……酷過ぎて笑えないですよ。

 控えめに言ってクズじゃないですか。

 だから来たんです。


 一時の不快さと天秤に掛けるまでも無いくらい、そっちが重かっただけの話ですよ。


 ……そこまで訊いて。


 ああー!

 そんな彼の心情に思い当たらなかった自分の幼稚さに腹が立つ。

 訊かなきゃ分からないって、何なんだ?


 自分を納得させて決断するのに、少し時間が掛かっただけなんだよ。

 理由自体は極めてシンプル。


 仲間と国を守りたい。


 当たり前の感情なんだよな。


 だから


「……ありがとう」


 俺はエリオスの両肩に手を置いてそう言ったんだ。


 エリオスは


「別に仲間として当然のことでしょ」


 そう、笑顔で返してくれた。

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