第30話 お前なんか知らん
「……知り合いですか?」
リンを見て、エリオス。
俺は嘘は言えないので
「ああ」
そう答える。
……エリオス、キレないよな?
それが怖くて、戦々恐々だったが。
「……黒属性の忍者ですよね?」
……ブッ込んでくる。
これは……やっぱり
「ああ」
これしかない……。
すると
「ゴメン、友達と話すのを邪魔するつもりは無いんだけど、あっちで聖騎士の女の子がアークデーモンと一騎打ち状態で戦ってる」
焦れた感じで、リンが乱入して来た。
その瞬間、エリオスの表情がちょっとイラついた感じで歪んだのを俺は見逃さなかった。
「絶対分が悪いと思うから、タケミ、助けてあげて欲しい」
リンからのお願い。
……こいつの言葉は優しさから出てるんだよな。
大体が。
そんなお願い……聞き入れる以外、選択肢は無いわけで。
「分かった」
……ちょっと逃げる形になってるかもしれないけど。
俺はそう言って、その場を離れる。
……リンとエリオス……
仲良くやっては貰えんだろうか……?
……無理だろな。
俺は走りながら諦めた。
アークデーモン。
レッサーデーモン、グレーターデーモンの上に位置する、悪魔の貴族。
これより上は、魔王……つまりデーモンロードしか居ない。
その姿は……
俺が走る先、原っぱで女騎士と斬り結んでいる。
漆黒の金属鎧でガッチリ身を包み、両手鎌で戦っている。
兜はつけていない……というか、付けられない。
ものすごく巨大な、ねじれた角が生えているから。
「人間の騎士よ! なかなかやるではないか!」
愉しそうに大鎌を振るうアークデーモン。
巨大な角を生やしている以外は、緑色の髪をした美青年という感じだ。
言動からすると、武人気質なのかもしれない。
「悪魔に賞賛されても、他者に誇れないので困るんですが!」
言って、戦っている女騎士。
それは長い黒髪で。
凹凸の激しいスタイルを持ち。
清楚な感じの顔立ちの……
まあ、予想はしてた。
アークデーモンと戦えそうな聖騎士と言えば、俺の知ってる中ではこいつ以外ない。
ミナだ。
今日の午前中、魔王との決戦に向かっていて、そこからたった1人で戻って来たという。
聖騎士・ミナだった。
彼女は左手で翼やら聖人の意匠が施された四角い盾・タワーシールドを構え、右手で片手剣を振るっていた。
確か名前はヴァルキリーソード。ロングソードの魔剣だ。アンデッド系の魔物へのダメージを倍増させるアンデッドキラーの効果を持つ。
「愉しい! 愉しいぞ!」
言いながら、アークデーモンは後ろに引き、両手鎌を片手に持ち替え、空いた左手で印を結ぶ。
そして
「カーテル デンジ ドルムト……」
魔法語の詠唱をはじめた。
魔力魔法第6位階の攻撃魔法「酸の空気」
指定の空間の空気を、吸い込むと肺を侵し、目を刺激する酸性の毒ガスに変える魔法。
アークデーモンは第6位階までの魔力魔法を使いこなす。
ミナは呼吸を止めて目を閉じた。
それが外から見ても見て取れた。
……マズイ!
俺はダッシュする。
そしてミナの前に飛び出した。
ギンッ! と激しい金属音。
アークデーモンが突っ込んで来たのだ。
本来なら「酸の空気」の魔法で酸性の毒ガスに変質したはずの空気の中へ。
そのからくり。
……こいつ、途中で詠唱を途中で止めやがった。
今、魔法詠唱自体をフェイントに使いやがったんだ、こいつは。
本来なら、あの魔法は
空気を意味する「カーテル」
変化を意味する「デンジ」
皮膚を意味する「ドルムト」
そして最後に、刺すを意味する「ヴィータ」
この4つの単語で成立する魔法なんだ。
この4つを並べて
「空気よ、変じて皮膚を刺せ」
となり、魔法が成立して発動するんだ。
そして、酸の空気の魔法のどぎつさが分かっていたら、ドルムトという単語を聞き取った瞬間、反射的に対応してしまう。
……こいつ、高レベルの魔法戦士の戦い方を分かってやがる。
厄介すぎるぞ。
「……タケミさん?」
後ろから、ミナの声。
俺はその声に応える。
「……加勢する。礼は要らん」
本来ならエリオスを傷つけたお前なんか知らんって言いたいんだがな!
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