第68話 最初の仲間

 魔人ヨシツネを倒した。


 代償で左耳を切ってしまったけど、まあこれは外に出てから、エリオスに頼めばなんとかしてもらえるレベルの負傷だ。

 法力魔法の第8位階の魔法「全快」を使用したら、生えてくる。


 何せ、腕が無くなっていても再生できる魔法なんだ。

 耳ぐらいなら絶対に大丈夫。


 だから気にしてない。


「タケミ!」


 リンが俺に呼びかけてくる。

 まあ、予想はつくけど。


「耳を拾っておいて! くっつける!」


 ……気遣いはありがたいけどなぁ。

 再生する方が、ムラなく治るし。


 拾って、押し付けて、回復掛けてくっつけるのは正直……遠慮したいかな?


 だから


「気にしなくていいから! 生きて帰ったらエリオスにやってもらうから!」


 そう言ったんだけど。


 それを言った瞬間、リンが振り向いて。


 ……なんかジト目でこっちを見て来た。


 ちょっと待てや。


 くっつけるより新しく生やした方がいいに決まってるだろ!

 くっつける場合だと、ゴミがきっと傷口についてるわけだから、跡が残る原因になるし!


 それが悪いんか!?

 悪いんか!?



 ……と、言いたかったけど。


 俺はこう言い直した。


「だから、地上に戻るまでの間の応急処置で、普通に回復掛けてくれ!」


 これなら文句ないだろ!?


 すると


 今度は少し嬉しそうな顔で振り返って来た。


 全く。

 これでもダメだったら、さすがに我侭にカウントさせて貰うしかない。

 そう言わざるを得ない。


 それはそうと……


 ……呪い武者、まだいるな。


 手伝うか。


 そう思い、俺が飛び出そうとしたときだ。


「ああ、タケミさん。ちょっと待って下さい」


 聞き慣れた声が後ろから飛んで来た。

 俺は足を止める。


「ダイワール リビルド アイアー ルゼオース」


 おお……

 聞き覚えのある魔法語詠唱。


 俺の耳が生えてくる実感がある。


 って……


「何で居るんだよ!」


 俺は振り返って、大声で叫ぶように彼の名を呼んだ。


「……エリオス!」


 そこにはブルーの法衣を着た金髪の美少年……


 エリオスが居たんだ。




「何って……転移で飛んで来たんですけど」


 ブルーの法衣に、背負い袋。

 どっからどう見てもエリオスだった。


 ……一瞬、迷宮の魔物が化けている可能性を考えたんだが。


「僕の最初の閃光業火の魔法、山賊相手でしたよね」


 ……思い出語り。

 当然そういう疑問を持つこと考慮して、か。


 ……確かそうだったよな。

 俺の記憶の中では、エリオスと2人、山賊に攫われた村娘数人を救う仕事を受けて。


 一般人数人を連れて逃げるの、追手の山賊どもをやり過ごすのにはキツくて。

 そこでエリオスが「習得したての究極魔法を使用して、連中にワカらせてやりましょう」って。


 で、見通しの良い開けたところにわざと出て、待ち受けて。

 連中としても、村娘を売春宿に売り飛ばして金を稼ぎたいので、流れ矢で村娘が死ぬ状況は避けたいだろうから、相手が近接の物量作戦でカタをつけたくなる状況を用意して。


 ついでにエリオスは女装して。


 自分の存在をひた隠し。


 んで、山賊連中が戦力の逐次投入を止めて、集中と突破を狙って来たのを見計らって、閃光業火発動。

 山賊どもの大半を超高温の熱線で焼き払い、死体を蒸発させて絶対に蘇生できない状態にした。


 確かそれが、閃光業火初使用の思い出だ。


 だから俺は笑顔で


「確かそうだな。わざとお前が怪我してる風を装って、敵を呼び込んだんだよな」


 カマを掛けるための嘘を言うと


「僕が女装したんですよね」


 引っかからず。

 ……おっけ。本物。


 ここで俺はようやく警戒を解く。


「……どうやってここまで来たんだ?」


 転移って言ったけど、どうやって来たのさ?

 よく、今地下8階にいるって分かったな?


 すると


「その話は後で」


 そういうエリオスは、残りのメンバーがまだ呪い武者との戦闘に苦戦しているのを見ていた。


 なので彼はそれを見つめ


「ゲイル ギイル ロフェイト サウルム ビラム ナイル!」


 その詠唱の完成とともに。

 呪い武者の出ている空間に、渦のような歪みが出た。


 そして数瞬後に、風を吸い込む音が鳴り。


 ……その場に居る呪い武者が全て消滅した。


 法力魔法第8位階の「不浄消滅」の魔法だ。

 悪魔とアンデッド限定で、その存在をこの世から追い出す魔法。


 エリオスは、自分の魔法の成果を目で確認し


「……もう良いですよ。話しましょうか」


 落ち着いた様子で、俺にそう話しかけて来た。

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