第28話 襲撃

 魔界の穴から、悪魔の大群が雪崩れ込んで来た?


 ……悪魔が湧いてくるのは地下8階から9階のはずだろ?

 1階には、ビーン一族とゴブリンやコボルトみたいな、しょうもないのしか居ないはず……!


 そうは思ったけど。

 あの兵士、絶対に嘘を吐いていない。

 だから、本当に出て来たんだ。


 ……行くか。


 俺が駆け出すと、エリオスが付いて来た。


 ……ん?


 俺が振り返って彼を見る。

 すると彼は不敵に笑って


「……僕なら素手でも戦えます。忍者とは意味合いが違いますが」


 ……確かに。

 俺はそれに心で頷き、返事の代わりに足を速めた。




 表に出た。

 いつもなら、迷宮の入口を眺めることが出来る、何もない原っぱ。

 そこに……


 メエエエエ!


 黒山羊の頭と下半身を持ち、上半身屈強な男という姿の悪魔が、街の防衛のために出動した兵士たちと戦っている。


 ……レッサーデーモン。

 魔力魔法を第4の位階まで使いこなす難敵……!

 グレーターデーモンよりは下位の存在なんだけど、それでも十分強い。


 兵士たちはそんな存在と、必死で斬り結んでいた。

 だが、気持ちだけでどうなるもんじゃないから。


 飛んでくる火球爆裂の魔法を喰らい、徐々に押し込まれていた。


 戦闘経験が浅い兵士たちに、この悪魔の相手はきつすぎる……!


「マジかよ。地上にレッサーデーモンがいるぞ……」


 俺がそう、思わず見たものを呟いてしまうと。


「レッサーだけじゃないです。グレーターもいます」


 後ろから走って付いてきているエリオスが、そう冷めた口調で教えてくれる。


 なるほど……

 確かに、空を舞っている青いのがいるな。


 ……結構……いやかなりヤベエな。


「ちょっと、荒い方法取りますね」


 俺が事態の深刻さに戦慄しているときだ。

 エリオスがそう、俺に断って来たんだ。


 ……荒い方法……?


 それについて、瞬時に3つほど候補が上がったけど。


 次の魔法詠唱を聞いたときに、それが1つに絞られた。


 彼は走りながらこう唱えたんだ。


「マナ アレーズ フィック キャストリア!」


 魔力魔法第8位階。

 防御魔法「力の盾」……一定量の物理ダメージを完全カットする魔法。


 さらに


「マナ オルーフェ フィック キャストリア!」


 魔力魔法第9位階。

 全ての魔法を一定時間完全にシャットアウトする魔法。

 魔力の盾。


 そして最後に


「エアイー タベント ヘライート!」


 魔力魔法第6位階。

 自分の時間を早回しにすることで、行動を高速化する魔法。

 高速化。


 俺は彼を振り返る……彼の姿は薄く輝いていた。


 今の彼は相当素早く動くことが可能であり、魔法でも物理でも傷つかない。

 それがいったい何を示しているのか。


 彼が足を止める。

 戦場が一望できる位置だ。


 ここで……


 彼は視認する。

 目の前に見えている敵を。


 そして……こう詠唱した。


「サラウム エアイー ビラム ダイン ニッシュ ティング!」


 その詠唱が完成した瞬間。


 俺の見えている範囲にいる、全ての敵悪魔に空からの雷が直撃する。


 ルギャアアアアア!!


 雷の直撃を受けた悪魔たちが全員絶叫する。


 法力魔法最終位階。

 攻撃魔法の「神罰」だ。


 神の力を分けて貰い、その力で術者が敵と認識した相手全てを攻撃する。

 ちなみに


 雷が落ちたように見えるが、見た目が似てるだけで、実際はただの純粋な破壊エネルギーだそうだ。

 前に雷系の魔物に使用した際、それが問題なく通じたのが気になって聞いてみたんだが、そのときに教えて貰えた。


 俺は魔法の発動を確認した瞬間、思い切り叫んだ。


「兵士の皆ー! 退避しろー! 君らは門の防衛に回ってくれー!」


 ……これからやることには、むしろ兵士たちは邪魔だからな。

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