4章:新しい迷宮

第42話 行くか

 そして、地下1階に降りた。

 いつも通り。

 天井や壁が少し光ってるせいで、薄暗いけど、見えないほどじゃない暗さ。


 そこに


 俺たち6人のうち、エンジュが手を上げる。

 そして。


「明かりやー!」


 そう、言い放つ。

 それに反応し、輝く球体がエンジュの真上に発生。


 それはエンジュについて回る照明と化す。


 ……これが。

 魔力の指輪の効果。


 この魔法、本来は第1位階の照明魔法で「明かり」の魔法。


 魔力魔法を全く使えないエンジュでも、こうして術者の実力が問われない術ならば使い放題。

 これはこれでとてもありがたい。

 これまでは勿体なくてこんな使い方できなかったわけだしな。

 大盤振る舞いだ。


「さて、いくで」


 言って、背負い袋を背負って先行しようとする。

 おいおい、と思ったが。


 ……ちゃんと背中にのぼりをつけている。

 これがあったか。


 確か名前は「妊婦の幟」

 これを立てている人間を、こちらから何かしらの方法で傷つけようと画策しない限り、攻撃の標的から外す魔法の幟。


 じゃあ、良いのか。


 そう思って、俺もきびきび行こうとしたら。


 リンがエンジュを


「待って」


 引き止めてきた。

 なんや? と振り向くエンジュ。


 彼女に。リンは。


「……この子を念のためにテイムしてくれる?」


 ……迷宮の影に潜ませていた、グレーターデーモンを引っ張り出して来た。




「……タマミ、すごいものを見たよ」


 タマミが呆然とした調子でそう言った。

 うん……まあ、それには同意する。




「道鏡の膝を挿入しやすいように、お尻を高く掲げて、お尻の肉を左右に広げなさい!」


 リンがそう命じて。

 グレーターデーモンの菊座を衆目に晒すポーズを取らせたんだ。


 そして


「ハイ、エンジュ。あなたが挿入して、この子のマスターが誰であるか分からせて」


 笑顔でそう言い、道鏡の膝を手渡した。




 で。


 今、俺たちパーティの真上で、ばっさばっさと青い影が羽ばたいている。

 グレーターデーモン。


 第5位階までの魔力魔法を使いこなし、麻痺毒、分裂能力までも備えている大悪魔。

 普通のパーティーなら、こいつだけでも驚異のはずだ。

 だけど……


 俺たちパーティーは、これくらいなら大丈夫。

 それこそ、テイムできてしまうレベルで。


 だからきっと、大丈夫だ。


 なんて。

 ちょっと油断はあったかもしれない。


 ……気づくのがちょっと遅れた。


 明かりもあったのにな。


 おおおお……


 呻き声。

 向こうから、何かがやってくる。


「何か来るよ!」


 リンの言葉。

 分かってる。


 俺は目を凝らした。


 明かりがあるんだ、見えるだろ……


 来たのは、人影。

 ただし……


 成人から老人、子供も混じってる。

 着ている衣服もバラバラ。

 法衣から一般衣服、そして革鎧やぼろ布まで。


 そしてその全てが、黄色い光で包まれていた。


 あれは……ビーン一族。

 ビーン一族が……


「ありゃ、ワイトやな。ビーン一族がワイトになっとる」


 エンジュがすぐさまその正体を看破する。

 だよな。


 死体に、高位のアンデッドがあの世から召喚した悪霊を憑依させたモンスター。

 本体は悪霊のエネルギー。だから


 ……確か、普通の武器が効かないんだよな。

 魔法武器か、銀の武器でないと攻撃が通じない。


 でもま……


「……このパーティーで、魔法武器を持っとらんヤツの方が珍しいわい。恐れるに足らんな」


 おやっさんの言うとおりだ。

 ……若干、十束剣が通じるのかが気になるけど。


 だから


「なぁ、リン」


「何?」


 すでに手に指輪を装備しているリン。

 ここでもう、答えは出ているけど、あえて俺は訊いた。


「ワイトに十束剣通じるの?」


「ミスリル銀は、それ自体が万能の魔法鈍器ということが出来るわよね?」


 だよな。よし……


 いくか。


 俺は阿修羅を抜いた。

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