第52話 後悔、怒り、感服
パズズの右手を切断した!
左手はグレーターデーモンが封じている!
今ならエナジードレインを気にせず、こいつと戦える!
俺も阿修羅を抜き八相に構え、斬り掛かる。
そのとき
「アレーズ ティング マハル ムドーラ!」
パズスの魔法が飛んで来た。
法力魔法なんだろうか?
魔法としては法力魔法第7位階の攻撃魔法「波動爆裂」にそっくりだった。
術者の半径4メートル圏内に、強烈な衝撃波を浴びせる魔法だ。
俺たちは踏ん張り、波動の直撃に耐えた。
グレーターデーモンも、最大級の波動を喰らいつつも、与えられた役目を放棄しなかった。
……ちょっとだけ俺は、その様子に好感を持ってしまう。
悪魔相手に。
そして俺たちが怯まないことに気づき、パズズは
「しぶとい奴らだ! ならば……!」
今度は大きく羽ばたく。
風が、巻き起こる……!
すると
俺の中で、突如病気のスイッチが入った。
そう表現するしかないほど、急激に体調が悪くなっていく。
そういえば
エンジュは言っていた。
パズズには熱病を起こす能力があると。
熱っぽさ。
倦怠感。
……そして、眠気。
ま、まずい……
俺は、膝を折った。
阿修羅を杖に立ち上がろうとするが……ダメだ。
特に眠気がやばい。
意識が朦朧とする……
横に……なりたい……
「……やっと大人しくなったか。待っていろ。1人ずつ仕留めてくれる……」
パズズの声が、遠い。
言ってる内容を聞き取ることが出来るが、理解が追い付いて行かない……。
マズい状況。
おそらくそのはずだ……
うごか……ないと……
そのときだ
「なっ! 何故お前は動けるッ!?」
……朦朧とする意識の中。
俺は、単騎で動くずんぐりした人影を見た。
……おやっさんだ。
パズズはそれを驚いているみたいだったけど……
まあ、おやっさんだったらやるだろうな。
納得できるものがある。
熱病の症状、全部精神力で抑え込んで、活動する。
まあ、やるだろ。
ただ……
おやっさんの武器の魔神の戦斧、重さが「本人が重く感じる重さ」に変化する魔法の戦斧だから。
攻撃がどうしても大振りになる。
なので、パズズに当たらない。
全部回避されている。
当たれば、必殺なのに……。
そのとき、ふと視界の端に
自分の背負い袋の中身を探る、エンジュを見た。
エンジュ……何を……?
そのときだ。
「アレーズ ティング マハル ムドーラ!」
再び、波動爆裂。
衝撃波を間近で喰らい、おやっさんが押し戻される。
だが……根性で耐えに耐えても、限度がある。
いくらおやっさんがタフでも、あんな戦い方をしていたら、勝ち目なんて無い……!
おやっさん……
「マハール デンジ ロルン ハースニ!」
パズズは、波動爆裂だけでは仕留めきれないと思ったのか、個人へのダメージがより大きい真空刃の魔法に切り替えて来た。
おやっさんが、真空の刃に斬り刻まれていく。
助けたい……!
だけど……!
今の俺は、魔法を使うための集中が出来ないし、剣術を扱うための意志力も無い……
何も……できない……
畜生……
そのときだった。
突如、傍で倒れていたミナが起き上がり。
パズズを逆袈裟で斬った。
彼女のヴァルキリーソードは、大変な深手をパズズに負わせる。
アンデッドキラーの特性が乗った、不死者を滅する剣……。
「な……!」
パズズが予想外の方向からの攻撃に、驚愕で硬直する。
俺も動けなかった。
一瞬、意識の覚醒すら起きた。
驚きのあまり。
……一体、何故……?
そしてそれは、パズズには致命的な隙だった。
パズズの胴への、おやっさんの戦斧の一撃。
まるで木こりが巨木に叩き込むそれ。
……あっけなくぶった切られ、パズズの上半身と下半身が分離し、上半身が空中で回転する。
「しまった……ッ!」
自らの致命的ミスに対する後悔。
そして自分が敗北したことへの怒り。
さらに……感服。
色々な感情が汲み取れる声だった。
最期の。
そして。
2つになったパズズは、俺たちが見ている前で黒い塵になって消えて行った……。
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