第46話 避けたかった再会

「アレーズ ティング ジーオ!」


 法力魔法第2位階の攻撃魔法・波動だ。

 リンがギリメカラに向けた手のひらから、力の波動が放射され、ギリメカラを打つ。


「マハール デンジ ロルン ハースニ!」


 剣の切っ先をギリメカラに向けた、ミナの真空刃の魔法。

 詠唱に応え、風が巻き起こり、真空の刃がギリメカラを斬り刻む。


 パアオオオオオオ!


 ギリメカラの悲鳴。


「ダートルド ギバール オンローバー!」


 そしてエンジュがテイムしているグレーターデーモンが放つ氷嵐の魔法。

 吹雪の嵐がギリメカラを凍えさせる。


 ……集中砲火。


 手持ちの攻撃魔法を全弾叩き込む。

 今やれることはこれしかない。


 ……これで倒せたらいいんだけど。


「ダイン ジーオ ティング!」


 俺は俺で。

 電撃放射の魔法を叩き込んだ。


 ……俺もこの戦いに全ての攻撃魔法をつぎ込む!


 俺の右手から放射された電撃を浴び、ギリメカラが悶える。

 効いてる!


 いける! いけるぞ!


 ……そう、俺がなんとかなるかも。

 そう思ったときだった。


「……やってますねぇ」


 ……前に1回だけ聞いた声。


 この場では、聞きたくなかった声。


 ……リンが反応した。


「バルログッ!?」


 天井近くの空間。


 ……そこにいたのは。

 黒づくめで、顔の上半分を嗤いの仮面で隠し、左手甲に金属の爪を装備した男。

 そんなのが空中に浮いていたんだ。


 リンの厳しい視線を受けて。


「おやおや、怒ってらっしゃいますねぇ」


 心底困ったように、笑ってそう言ったんだ。




「あいつがバルログか!」


 エンジュが反応する。

 ……彼女はここに来る前に、きっちりバルログについて調べてくれていた。


 曰く……


 バルログが同時に分身出来る数は、4体まで。

 そして


 その4体を同時に倒さない限り、バルログは倒せない。


 ……倒し方は分かった。

 しかし……


 今は、間が悪すぎる!


 だから


「お前の倒し方は知ってるぞ!」


 俺は声を張り上げた。

 本来は悪手だ。


 こっちが相手が隠し持ってると思ってる秘密を把握している。

 それ自体が1種のカードになるからな。


 けど……


 今、ギリメカラで手一杯。

 同時にバルログの相手はできないんだ。


 ……だったら。

 こっちが相手の秘密を把握していることを暴露して、撤退を促すしかないだろッ!


 だが


「ホッホッホ。それはそれは。……リスクの無い戦いなんて面白くもなんともないですしね。むしろ嬉しいです」


 バルログには何の動揺も無いようだった。

 そして


 ……俺たちの見ている前で、4体に分裂する!


 まずい……!

 ここでギリメカラとバルログを同時に相手するのは無理としか言いようがない……!

 さっきも言ったけど。


 どうする……!?


 考えろ……!


 頭を回す。

 何か無いか……!?


 そのときだった。


「どりゃあああああ!!」


 エンジュが両手でブンブンブン、と複数の玉を投げる。それはギリメカラに当たりもくもくと黒い煙になる。

 煙幕玉……

 そして


 ギュオオオオオオオ!


 聞いたことも無い鳴き声をギリメカラが発した。


 ……刺激植物粉末玉も混ぜたのか。

 てゆーか、あれは物理攻撃にカウントされなかったんだな。


 そしてエンジュは叫ぶ。


「皆! 逃げんで!」

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