第47話 撤退だ!
「エンジュの指示に従え! 撤退だ!」
俺も呼びかける。
そして走り出す。
リンが戦闘を中断して逃走に移るのを見届けてから。
「おやおや、尻尾を巻くのですね」
背後からバルログの嘲笑う声が追って来る。
悔しかったが、今はこうするしか無いんだ。
「どうするんじゃエンジュ! それにタケミ!」
遅れ気味で走りながらおやっさん。
さっきの戦いではギリメカラに何の痛手も与えられないポジだったせいで、比較的速やかに逃走に移れたけど。
引っかかりはあるようで。
まぁ、分からないでもないけど。
俺は
「とりあえずどっかの部屋に逃げ込む! そこに魔物がいたら倒して、そこで少し考えよう!」
進むか、戻るか。
それを考えないといけない。
「あそこの部屋だ! 飛び込むぞ!」
待ち伏せを喰うかもしれないし、扉に罠が無いとも言い切れない。
けど。
今はそんなことを言ってる場合では無い。
俺は足を速め、その部屋のドアを開け放ち。
中に飛び込んだ。
すると
魔物が居た。
ゴアアアアアアアアッ!!
……動物系の魔物の強敵。
ティーレックス。
ドラゴンに似ているが、違う。
まず知性が獣そのもの。低すぎる。
そして、ブレスを吐く能力が無い。
翼も無いので、飛行能力も無い。
けれど。
馬力だけはドラゴンを軽く上回る。
顎の大きさがドラゴンとは比較にならないほど大きいからな。
そして力強い太い足と太い尾。
これで素早いフットワークを見せてきて、強烈な一撃を出してくる。
……その反面、前脚だけが冗談みたいに小さいのが違和感あるが。
で……
この部屋に居たのは、それのゾンビ……アンデッドだった。
本来は緑色だった鱗付きの皮膚は腐敗して灰色になってて、所々腐肉が見えている。
口腔内部も腐敗が回って、表現しづらい色に変色してる。
言うなれば、ティーレックスゾンビか。
一般に、ゾンビ化すると生物としてのリミッターが外れる影響で、馬力がさらに増すんだよな。
そして麻痺毒を備えるようにもなってしまう。
噛まれると大ダメージを受けて、加えて麻痺までしてしまうという。
……最悪過ぎるよなぁ。
ま、倒すけど。
ゴアアアアアアアッ!
俺がそんなことを考えながら阿修羅を抜刀している前で、ティーレックスゾンビは俺に喰らいついて来た。
「で、宝箱はどんな感じ?」
おやっさんが魔神の戦斧の一撃で、脚を1本失って立てなくなったティーレックスゾンビの首を落としている横で。
俺はタマミの作業を見守り、問う。
……リンには申し訳ないけど。
やっぱ本職は安心感が違うよな。
タマミが真剣な顔で、金の縁取りの宝箱を調べている。
……本来はこの階層で、このランクの宝箱は出てこないんだけど。
これ、最下層の仕様だぞ。
……今の迷宮、全階層が最下層レベルになってるのか?
それを、疑わざるを得ないよな。
「多分、罠は悪魔の目玉だと思う」
……悪魔の目玉……
石化の視線を放つ、目玉のような魔法生物が仮死状態で入ってて。
宝箱を開けられたときに目覚め、無差別に「浴びると石化する視線」を放ってくるっていう、あれか。
「解除できそう?」
「できないはずないよ」
……だよな。愚問。
見てる前で、タマミは宝箱の蓋の隙間に、何か曲がりくねった針みたいなものをねじ込んでる。
確か、仮死状態の悪魔の目玉をあの針でぶっ殺して、仮死を本物の死亡にしてしまうという解除方法。
そしたら
「ホイ完了。開けるよ」
ほとんど時間を掛けずにそう宣言し、タマミは宝箱を開けた。
中に入っていたのは……
巻物が2つ。
ネックレスが1つ。
あとは金塊と宝石。
……正直、金はどうでもいい。
アイテムの方だ。
……運頼みなのが何だけど。
今の状況を覆すアイテムだったらありがたいんだがな。
俺たちが見守る中、エンジュがアイテムの鑑定をしてくれる。
固唾を飲んで見守る。
そして
「……鑑定できたで」
一息をついて、エンジュ。
……節操がないが、ドキドキする。
エンジュ曰く……
「ネックレスは不眠のネックレス。つけてる間は絶対に意識が途切れへんようになって、眠れなくなる」
……なるほど。
で、巻物は?
俺がそれを促すと、エンジュが語ってくれた。
「これは転移の巻物と……」
そして2つ目の巻物。
その鑑定結果を聞いたとき、俺は前が開けた気がした。
「閃光業火の巻物や」
……閃光業火!?
魔力魔法最終位階の、究極の攻撃魔法……!
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