第58話 わりとキチいな
階段に逃げて行ったタマミのやつを追いかけようと思ったら、エンジュに止められた。
「タマミに任せるんや。あれは勝算あってやってるんやから」
そう、言われて。
なんでも……
俺たちが攻めあぐねているところで、タマミに耳打ちされたそうなんだ。
「エンジュ、タマミに転移の巻物と魔力の指輪と貧乳薬ちょうだい?」
って。
理由を訊いたら、それを活用してティアマトを撃退する方法を思いついた、って言って。
そして内容を確認したら、それを任せる気になった。
そういう話で。
どういう手なんだ?
そう思い、説明を求めたら
その説明が終わる前に、タマミが戻って来た。
「ただいまー」
超上機嫌で。
ニコニコしながらこう言った。
「ティアマトを倒したよ」
……マジか。
「はじめて金星挙げられたよ。嬉しいなー」
7階の通路を歩きながら
ニパニパ笑いながら手柄の思い出を語るタマミ。
……うん。
確かにな。
超意外だったし、正直感心した。
でも……コンプレックスを感じるところがおかしいと思うんだけど。
お前の仕事場、宝箱と鍵開けだし。
ぶっちゃけ、戦闘中は逃げ回ってるだけでも許されるし。
何も最前線で敵を斬り伏せるだけが仕事じゃ無いんだぜ?
……そういうの、大事だと思うんだけどな。
すみ分け。
俺のやってることがタマミに無理なのと同じように。
タマミのやってることで、俺にできないことはたくさんある。
見た目の派手さや地味さで、仕事そのものを蔑むのはおかしいだろ。
どっちが欠けても冒険者の仕事が成り立たないんだから。
……これ、言おうかなー?
でも、折角機嫌良いんだしな。
そのいい気分をクサすのはそれはそれでおかしいだろ。
そう、迷っていたら
「私に声を掛けてくれたら、ティアマトのブレスを避ける必要無かったと思うんだ」
……リンがそう、口を挟んで来た。
自分がその場に居たら、ティアマトの竜頭を斬り落とせたから、魔法陣が発動するまでの間、水刃ブレスを封じ続けることが出来た。
そう、浮かれるタマミに言ったんだ。
それを聞くと、タマミは「あー」と思い当たった顔になって
「……確かにそっちの方が良かったかもね。巻物を開封してから魔法発動までは30秒くらいだったけど、死ぬ気で逃げ回ったのが大変だったし」
「タマミは宝箱の処理だけでも十分働いているんだから、他に気を回さなくていいんだよ?」
……なんか、俺が言いたかったことを全部言ってくれた感じ。
ありがとう、リン。
俺が心で礼を言っていると。
「ここやな。宝箱部屋でもあるから、戦闘必須や」
エンジュが立ち止まり、部屋を目で示した。
進行上、絶対に通る部屋。
……戦闘。
タマミ、成功体験で精神的に蚊トンボから竜に進化するのは抑えろよ?
それだけ不安に思いながら
「俺が開ける」
ドアに罠や鍵も無いことは分かっているわけだし。
俺はドアノブを握り、回し……開けた。
そして入室する。
薄暗い部屋。
……いつも感じる恐怖と……あと好奇心。
これに慣れて、快感になると……
この仕事から抜け出せなくなる。
中には……
闇の中には、2つの影。
ひとつは……
ずんぐりした体型に長い首を備えた竜。
体高は5メートルくらい。
4つ足。体型は亀に近い気がする。
まあ甲羅は無いんだが、鎧みたいな骨盤……いや、鱗が全身を覆っている。
で、首が3つあり……さっきも言ったけど、長い。
顔は竜の顏。
トカゲの顏では無かった。
……正直、こいつは今まで出会ったことがない。
そしてもう1体は。
青白い肌と、緑色の髪を持つ巨人。
こっちも身長は約5メートル。
そしてこいつは……
巨人族なのに、鋼のプレートメイルで武装していた。
武器も持っている。
自分の身長に匹敵するグレートソード。
……天井の高さを考慮すると、こいつが武器を振るうのは無理が出てきそうだな。
で、こいつも俺は出会ったことがなかった。
エンジュが入室して来た。
そして驚愕しているようだった。
「……エンジュ、こいつらは何だ?」
阿修羅を抜いて正眼に構えながら、訊く。
エンジュは部屋の隅に逃げながら
「あいつらはストームジャイアントとアジ・ダハーカや!」
そして早口で捲し立てる。
「アジ・ダハーカは炎と吹雪と酸のブレスを吐いてくる! 気をつけい!」
……酸が嫌だな。
目をやられかねないし、防ぐ魔法が無い。
「ストームジャイアントは地域によっては神扱いを受けてる巨人族や! 雷や風を操る能力あるから、得物が振り回し
……わりとキチいな。電撃は喰らうと動きづらくなるし。
まあ、やるけど。
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