第65話 宿願との遭遇

 7階から8階に入った。

 この階は……グレムリンが出るんだよな。


 東洋の方では餓鬼って呼ばれてるらしいんだが。


 かなり危険な相手だ。


 どう危険なのかと言うと……

 迷宮に潜んでいて、通りかかる生き物を空腹にする。


 それこそ餓死寸前。

 そのレベルで。


 ……腹が減ったら食べれば良いだろ?


 まあ、冒険者の常識として、携帯食料は持って来てるけどさ。

 でもそれは無限じゃ無いんだよ。


 当たり前だけど。


 グレムリンに会う度に食事して、食糧が尽きたら。

 次の遭遇時にアウト。


 だからかなり危険。


 身体が特に傷ついたりするわけじゃないけどさ。


 だから


「なぁ、エンジュ」


「なんや?」


 傍を歩く彼女に訊いた。

 

「食糧って余裕持って持って来てるか?」


「あー……グレムリンなぁ」


 言いながら、エンジュは頭を掻く。


「正直、エレベーターが使えへん状況は想定してへんかったから、常識的な範囲内でしか食べ物はあれへん」


 ……マジか。


 じゃあグレムリンに遭遇したらマズいよな。

 勘が良い人間は、グレムリンを察知できるけど、それは絶対じゃないわけだし。


 ……どうする?


 すると、だ。


「この階に食べられそうな魔物は居ないの?」


 リンがそんな突飛な発言をしてきた。


 ……魔物をか~?




 なんでも。

 忍者の修行の最終段階で、山に武器以外、場合によっては武器すら持たずに籠って、1カ月生活するというのがあるらしく。

 その過程で魔物を食べるというのは普通にやるそうな。


 ……マジか。


 忍者らしいなとは思わなくもないけど。


「さすがにゴブリンやコボルトは食べないけど、動物の体格している魔物は皆食べられるよ」


 そんなたくましい発言をする彼女。

 とはいえ、この階は……


 本来は、凶悪生物のフロアなんよな。

 食えんことは無いのかな?


 例えば……


 巨大鳥ディアトリマだとか鎌爪竜ヴェロキラプトルだとか。

 豪傑熊とか……ジャイアントキャリオン・クロウラーとか。


 ……うん。

 蟲系はちょっと嫌だけど、他はまぁ……な。


「どうする……? 覗いていくか?」


 この階は本来、次の階段まで宝物部屋を通らないから戦闘はしなくていいはずなんだけど。

 ちょっとだけ、食糧を確保する目的で宝物部屋を覗いて行くのは良いかもしれない。


「まあ、多少消耗しても数分休めばええだけやし。……やってくか」


 エンジュは同意。


 他の面子の顔を見る。


「ワシは異存ないぞ」


「タマミも良いよ」


「私も別に構いませんわ」


 ……他の3人も同意。

 じゃあ、やってくか。




「とりあえずここにしてみるか」


 仲間の意思確認。

 全員、頷く。


 よし。


 ドアノブを回し


 開けた。


 部屋に入る。

 すると……


 中には、ひとりの男がいた。


 ヒュームの男だ。


 赤い、武者の甲冑を着用し。

 円筒状の黒い帽子を被っている。


 そして男性であるのに、白粉で顔を塗っていて。

 目に赤い化粧を施していた。


 そしてその両手に二振りの刀。

 二刀流。


 侍だ。


 すると、向こうがこっちに気が付いて


「……ほう……面白い客人ではないか」


 ……話し掛けて来た。

 こいつ……意思疎通ができる……


 つまり人間……

 俺は


「あんた、なんでこんなところに居るんだ?」


 こんな迷宮奥深くに、たった1人で。

 その疑問があったから、訊いたんだ。


 そしたら


「宝物の守護」


 えっ、と思って


 ……ここで、閃くものがあった。


 かつてのミナの仲間のチャラオウだったかマオートコだったか。


 彼らは「魔人ランスロットに出会った」って言ってた。

 ひとつ、疑問があったんだ。


 ……なんで、彼らは魔人ランスロットって分かったんだ?


 出会うこと自体が超絶レアな魔物なのに。

 普通に考えて分かるわけが無い。

 あのパーティー、学者いなかったのに。


 だから……ひとつ仮説を立てたんだよな。


「……アンタ、ヨシツネか?」


 訊いてみた。

 ひょっとしたら……


 そしたら、相手から答えが返って来たよ。


「いかにも」


 こんなふうに。

 相手が名乗ったんじゃないかな、ってね……。

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