第32話 これからどうするの?

「ディルマ マハル バディ リビルド」


 ミナが自分に回復の魔法を掛ける。

 ……ヒーリング能力があるとはいえ、放置は出来んわな。


 詠唱が終了した瞬間、光がミナを包み。

 みるみる、ミナの傷が癒えていく。


 そして


 彼女はぺこりを頭を下げ


「ありがとうございます。助かりましたわ」


 そう、俺に礼を言った。


「そういうのは良いから」


 仕方なく助けただけだ。

 礼を言われることじゃない。


 するとニコリといつもの笑みを浮かべて


「いえ。タケミさんが私のことを嫌ってらっしゃるのは理解してますから。その上で助けていただいて、礼を言わないのは違うでしょう」


 ……嫌なことを指摘してくるね。

 事実だけどな。


 俺としてはそんな言葉には


「そうかい」


 ……これ以外、言えなかった。

 で、俺は


「礼は言わなくて良いから、迷宮で何があったのか教えてくれんかね」


 ちょっと強引に、ぶっきらぼうに、そう言った。

 ぶっちゃけ、こいつとする会話で、意味があると言えるのはこれくらいだろう。


 ……魔王戦で一体何があったんだ?

 このこと。


 それに対して、ミナは。


「それは……」


 彼女は語ろうとした。だけど


 グアアアアッ!


 複数の青い悪魔が襲って来た。


 ……まだグレーターデーモンが生き残っている。


 まだそのときじゃないか。

 俺は腰の愛刀を抜いて構えた。


 ミナも、剣と、捨てた盾を拾い上げ、構え直した。




「タケミ」


 俺が最後のグレーターデーモンを斬り捨てたときだった。

 リンが、エリオスと……グレーターデーモンを伴ってやってきた。


「えっと……」


 俺が納めかけた愛刀をまた抜いて、そのグレーターデーモンを斬り捨てようとしたら

 リンに止められた。


「待って! この子は私がテイムしたの」


 テイム……?


 ここで俺は思い出す。

 ……道鏡の膝を使ったのか。


 ねじ込んだのね……こいつに。


 グレーターデーモン、平気な顔をして皮の翼を羽ばたかせてるけど。

 ねじ込まれたのか。


「そっか」


 俺はそのまま、また納刀した。


「こっちは片付きましたか?」


 エリオスが俺にそう言ってきたので、俺は頷く。

 エリオスは


「向こうも片付きました。これで、迷宮外に溢れた悪魔たちは倒し尽くしたはずです」


 ……なるほど。


「どうするの?」


 リンの言葉。

 どうするの、って……


「このまま迷宮に攻め込むのか、ってことです」


 エリオスがそれに続ける。


 えっと……


 この2人、喧嘩をはじめるかと思ったんだけど。

 どうもそうではないらしく。


 普通に会話している。


「エリオス」


「なんです?」


 話しかけると、エリオスは普通の顏で俺にそう返して来た。

 ちょっと訊きにくかったが……


 声を潜めて訊ねた


「黒属性の女だぞ……? リンは」


 すると


「ですね。でもまあ、別に」


 動じない。

 キョドらない。


 ……んーと。

 どういうことかな? これ?


 表情がちょっと読めなかった。


 一瞬、リンの綺麗さで許す気になったのかと思ったが。

 こいつはそういうタイプじゃ無いんだよな。


 ……ミナよりマシな品性だから?

 それとも、文句をつけるような言動が無いから?


 リン、感情に従って生きてはいるが、自己利益の拡大で感情を表に出すことあんまり無いんだよな。

 素で他者利益を気にしてるというか。

 そんなの、文句をつけようが無いよな……。


 なんか、そういう気がするなぁ。


 ……まあ、それは置いといて


 2人への回答。それは


「それは無いだろ」


 今日、俺たちは迷宮に潜って帰って来て。

 こうして軍勢相手に戦った。


 それはミナも一緒というか……

 ミナの場合は、魔王と戦って勝ってるのだから。消耗はそれ以上のハズ。


 こんな状況で戦うのは無理じゃないか?


「そこは僕も同感なんですが……」


 言いつつ、迷宮の入口を見る。

 ああ……


 確かに。

 また、あそこから軍勢が出ると困るもんな。


 どうするべきか……?


 そのとき。


「タケミさんー!」


 ……あまり知らない顔が駆け寄って来る。

 まあ、何者かは分かるんだが。


 兵士だな。

 この国の。

 鎧と槍という武装で分かる。


 ……俺はさ、腐っても最下層に潜ることが可能で、魔王討伐も視野に入る冒険者だったんだよ。

 つまり、近衛兵候補生とも言えたわけだ。


 なので、この国の兵士にある程度顔が利くんだな。


 そこで、俺に閃くものが……というか、当たり前のことなんだけど


「なぁ、悪いんだけど……あそこを見張って貰えんかな?」


 ……まだ兵士じゃ無いんだから。

 こういうときの対応に、俺たちが何でもかんでもやらなきゃならんっておかしいだろ。

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