第86話 最後の一刀
似た決断。
ミナのいうそれが気にはなったが
今聞くと、エリオスの集中が乱れるかもしれない。
その予感があったので、俺は確かめるのはやめといた。
……しかし
ミナの読みで、道が開けた気がする。
俺は無双正宗を腰の鞘に納刀し。
その後
「リン」
リンに声を掛け、その耳に囁く。
俺の言葉に、リンはハッとした表情を見せて。
俺の目を見つめ
「……分かった」
頷いた。
……よし。
閃光業火の結界は、爆風と高熱をシャットアウトする。
そして光と人の出入りは自由だ。
つまり、波動関係は阻まれる可能性大。そして火球爆裂は熱を遮られて消される可能性大だが、他はおそらく大丈夫だと思う。
なので、俺の選んだ魔法は……
「ダートルド ギバール オンローバー!」
魔力魔法第5位階の魔法「氷嵐」
その魔法語詠唱の意味は
氷結、嵐、発生。
現代語に訳すなら……
氷の嵐よ巻き起これ。
……こんな感じだろうか。
俺の詠唱に応え、俺が指定した1点から氷結の嵐が巻き起こり、ブラケルを巻き込んだ。
閃光業火の結界は、氷嵐の吹雪の嵐に対し何の役にも立たず、直撃する。
真空刃を喰らって刻まれた後、吹雪の嵐で凍えさせられる。
ブラケルは耐え続けた。
刻まれた傷を、吹雪で冷やされ、メチャクチャにされても。
全く閃光業火の集中を乱していない。
……こいつは敵だけど、素晴らしい人間だったんだと思う。
400年前のヒュームが、彼の父親を謀殺さえしなければ、この素晴らしい実力をそっくりそのままアシハラ王国のために使ってもらえたのに。
本当に、なんて真似をしてくれたんだ。
彼らは命でその罪を償ったが、それだけで消える罪じゃ無いよな。
それに。
何度も言うけど……ハーフエルフを殺すのは、我が子を斬るみたいな錯覚がある。
できれば……避けたい。
けれど
ああ……もうすぐ、氷嵐と真空刃の魔法効果が終了する。
あの空間が、再び静かになる。
そのときだ。
……ブラケルの右腕が2本とも、その手首の部分でスッパリと切断されたのだ。
ミナの真空刃と、俺の氷嵐。
切り刻まれ、冷やされれば
……その肌感覚が鈍くなる。
その可能性に期待した。
正面からリンの十束剣の金属糸を繰り出しても、さすがにそれは回避行動を取る可能性がある。
何故なら、喰らうと終わりという面では、一緒だからだ。
いくらなんでも、閃光業火の集中の安定性と、自分の首は引き換えには出来ない。
その場合、いくら危なくても逃げるだろう。
だけど……
度重なる魔法攻撃で、肌感覚が鈍くなり。
かつ、攻撃に耐え抜いた後、平静に戻った瞬間ならどうだろうか?
その瞬間を狙って、リンにお願いしたんだ。
ブラケルの腕の片側を、全部落とせ、って。
すると……
上手くいった。
閃光業火は両手で印を組む。
ブラケルは腕が4本あるが、両手の印を組むのに必要な、右手と左手のセットが無くなればその魔法を維持できない。
残った左手のみで、閃光業火の魔法は放てないし、維持できないんだ。
……ブラケルの閃光業火の結界が消滅した。
今だ。
俺は無双正宗の柄に手を掛け、腰を落とす。
右手を全部失ったブラケルは必死の形相で
「ダイワール リビルド……」
法力魔法「全快」の詠唱を行いながら。
俺たちの詰めている結界に向かって、特攻して来た。
……それしかないよな。
こっちはエリオスが最後の魔法語を詠唱すればそれで終わりなんだから。
だからワンチャン、安全な結界内部に飛び込んで、直接攻撃するしかない。
……でも、こっちはそれを読んでたんだ。
ブラケルの特攻は、捻りが無かった。
そんなことをしている暇がないからだ。
一刻も早く、結界内部に飛び込まないといけない。
だったら、工夫を加える余地なんてありえないだろ。
ぐんぐん、間合いが詰まってくる。
3メートル……2メートル……1メートル!
ここだ!
俺は無双正宗を抜いた。
抜刀斬り。
所謂、居合。
それは逆袈裟で、ブラケルの左腰から右肩まで、綺麗に両断した。
「アアアアアアッ!」
ブラケルの断末魔。
その身体が塵に還って行く。
そして……
俺の斬り上げた無双正宗の刃は。
刀身が紫色の光を放っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます