第56話 猛毒
「ウフフフ……」
水に包まれているティアマト。
溺れないのかと思ったが、一瞬後、こいつが水の邪神であることを思い出す。
「水に包まれておるな……それが防御になるのかのッ……!」
まずおやっさんが向かった。
その魔神の戦斧で、力任せの一撃。
まあ、そうならざるを得ない武器なんだけど。
破壊力で、防御を無視して叩き潰す……!
だが
「おっ……!?」
おやっさんの斧が、水の中に沈み込んでいて……
何故か、ティアマト本体に届いていなかった。
……飲み込まれている。
まさに、そんな感じだった。
その球体の水面から、ティアマト本体まで1メートルも無いはずなのに。
「……この海の結界、直径2メートル程度しか無いように見えるだろうけど……」
ここで水面から出ている竜の首2つと
「魔術的に、この私本体までの距離を、海面と海底の距離に拡大しているのよッ!」
ザバッ!
そのティアマトの言葉と同時に
ワニやドラゴンに似た、爬虫類の顎が球体から出現。
それが竜の首2つと同時に、おやっさんに喰らいついて来た。
おやっさんは動けなかったんだが。
間一髪、リンの攻撃が間に合った。
竜の首2つが切断され。
爬虫類の顎の上半分も半ばで輪切りにされて切断された。
……ナイス!
ギイイイイイ!
頭部を失った2つの首は暴れまくり。
そして顎を半分斬り落とされた爬虫類は、悲鳴をあげて海の中……ティアマトの球体に逃げ帰って行く。
「……今のは海の王者とか暴君とか言われとる、モササウルスやなあ」
エンジュの言葉。
今のが海のモンスターの召喚か……
つまり、ティアマトの傍に立ち、戦うことは、海のモンスターと船で戦う状況と同じわけか。
……危険だな。
海に引きずり込まれる状況。
ありえるし。
……予想外の状況で死ぬ場合が充分過ぎるほどあり得る……!
シャアアア!
……そしてリンに切断された竜の首。
十秒経って無いのにもう再生し、俺たちを睨み据えている。
「切断しても無駄よ!」
勝ち誇った笑みを浮かべながらティアマト。
「生え変わるからね! あなたたちは1人ずつ、私の海で溺れさせてあげるわ!」
……物理攻撃が届かないから、実質無効か。
唯一出ている身体の一部の竜頭は、生え変わるから攻撃する意味がほぼ無し……
魔法は……
おそらく火球爆裂も氷嵐も、効果無いな。
あの海の結界のせいで。
効果が届かないから。
だったら……
俺は印を結んで、魔法語を詠唱する。
「ダイン ジーオ ティング!」
電撃放射の魔法!
確か電気は海水に通電したはずだ!
これなら……!
しかし。
俺の魔法は着弾後、全体をビリつかせた後、消えてしまった。
するとティアマトは嗤う。
「……そんな魔法、広大な海に流しても散ってしまって無効化するに決まってるじゃない!」
かなり可笑しかったのか、おなかを押さえて笑っていた。
無理か……!
どうする……?
考えろ……?
……閃光業火はどうだ?
あれなら、指定の結界内部に洩れなく熱線と爆風を浴びせるという魔法なのだし。
効果があるかもしれない。
……しかし、その場合はギリメカラへの切り札を無くしてしまう……
そのとき
ヒュッ
何かが、飛んだ。
それは……
ティアマトはそれにこう言った。
「あら、無駄な足掻きね」
と。
それはタマミ。
タマミの炎の矢。
タマミがボウガンで撃ったんだ。
……鍵開けが終わったのか、諦めたのか知らないけれども。
とにかく、それは彼女の一撃だった。
彼女の燃える矢の一撃が、ティアマトの竜頭の目を1つ潰したんだ。
見事なエイム。
グワーッ!
竜頭が悲鳴をあげる。
けれども
「……時間稼ぎ? 何の意味も無いことを」
……本体は何のダメージも負っていないようだった。
そして続ける。
「竜の頭の目はね、飾りなの。私の頭部の位置に疑念を持たせるためにね」
ティアマトのそんな言葉。
なるほど……
全ての頭に本物の可能性を出しておいて、戦いになった場合、敵の狙いを分散させる……
そういうことか。
まあ、この戦闘ではその2つはすでに1回斬首しているから、司令塔はすでに明らかになってるんだけども。
「さあ、まだ無駄な足掻きする? それとも溺れる?」
妙に優しい口調でティアマト。
勝利を確信しているようだ。
その余裕。
傲慢。
だからか。
ヒュッ
またタマミが矢を射た。
狙いはさっき炎の矢を撃ち込んだ竜の目。
……あの矢自体は、炎で出来ていたのですでに無くなっていたけれど。
そこにもう1回撃ち込んだんだ。
……普通のボウガンの矢を。
「……くだらない」
ティアマト、今度は避けない。
ダメージなんて受けないんだから、当然だ。
そういう感じだろうか。
無傷の目ならまだしも、すでに傷ついた目。
なおさら、避ける価値がない。
そのまま、受ける。
そして。
……ティアマトの爆乳が、萎んだ。
プシュウ、って感じで。
ティアマトの目が点になる。
……ティアマトが、衆目を気にせず、ドレスの前を開け、胸を出して確認した。
そこには……
大きく盛り上がった双丘は存在せず。
ただただ、大平原にポツンと乳首があるだけだった。
それが確認できたとき。
「アハハハハハハーッ!」
タマミが大笑いする。
ドアノブに手を掛けながら。
「アンタにこのタマミさんが撃ち込んだのは、毒の矢! 強力な毒薬の貧乳薬を塗り付けた、女限定の猛毒矢だよッ!」
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