第86話 陽光の下

 暁片が破片になると共に、炎と分厚い雲は切り開かれるように分断され、陽光が眩しく射し込んできた。それからまもなく、細かい雨粒が天の恵みのであるかのように降りそそいでくる。


 常に寄せられるように現れた妖や鬼は消え去り、辺りは静かになった。聞こえるのは風に揺れている木々の葉の音と、鳥のさえずる声のみだ。天弥道で戦っていた人々は皆、剣を手に持ったまま空を見上げている。


 常の砕かれた暁片の一かけらを手に乗せて、見つめている。その掌は細かく震えていた。秋は常の肩に手を置き、その顔をのぞき込んだ。


「無事か?」


 常が顔を上げた。雨が顔にかかって、汗のようにも涙のようにも見える。秋の瞳を見つめて、微笑むように目を細めた。陽光と雨が常の暗い色の瞳に映り、小さな輝きをもった。


「師兄、僕は消えないといけないみたいだ。……でも、必ず戻ってくるから」


「常、それはどういう――!?」


 常はその言葉を残し、秋が瞬きをする間に、その姿は跡形も無くなっていた。折れた剣が地面に落ちて、虚しい金属音をたてた。


 しばらくの間、秋は呆然として立ったまま動けなかった。冷や麻が駆けつけるまで、まるで時間が止まったようだった。


 

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