第26話 素晴らしき剣技
白虎である
「
「分かってるよ、冷さん。その言葉を言うのは十回目だよ」
「え、君はずっと数えていたんですか?」
常が頷くと、冷は急に笑い出した。常はなぜ冷が笑い出したのか分からなくて、不思議そうにしている。ひとしきり笑ったあと、落ち着きを取り戻した冷が言った。
「笑ってしまってすみません。……白虎殿も数えるんですよ、私が心配した回数を」
冷は、声を低くして目つきを鋭くして、
「
常は、冷がそのような低い声を出すのを初めて聞いたので、そこにびっくりして目を丸くした。
珍しくふざけながら二人が山道を歩いて行くと、道は段々細くなり辺りは竹林となって、冷たい風が吹いてきた。
鬱蒼と茂る竹の葉により、太陽は隠れて二人の足下は暗くなった。
「ほら、沢山居ましたよ。討伐し放題ですね」
冷がそう言うと同時に、数十もの妖鬼が現れて不気味にうごめいた。妖鬼の発した子どもの笑い声のような鳴声が竹林に響いている。
最初はところどころ空間が黒く歪んでいるだけであったが、それらはたちまち人の姿をとり、冷と常に向かって襲いかかってきた。
冷は剣に手をかける様子もなく、自身に近づいてくる妖鬼の姿を静かに見つめていた。
少し後ろを歩いていた常だったが、このままでは冷は妖鬼に襲われてしまうと思い、堪らなくなって叫んだ。
「冷さん…… !」
冷の顔の一寸先に妖鬼が迫ろうとした時、冷の身体がくるりと回り、妖鬼の姿は真っ二つになった。いつ剣を手に取ったのかさえも見えなかった。常には速すぎて何が起こったのかよく分からなかったが、冷によって妖鬼が砂のようになって消えたことだけは分かった。
さらに、次々と迫り来る妖鬼に対して冷は間髪入れずに剣を振った。白い一筋の光がきらめいたかと思えば、次の瞬間には妖鬼が切り刻まれていた。そのような、信じられないことが三度ほど起こった。それほど時は経っていないのに、すでに四、五体が冷によって討伐されたのだ。
冷は軽い足取りで前方へ向かって走り、身近な場所にあった竹を蹴り、しなる竹と竹を身軽に渡ってゆく。そして、竹の間に不気味に蠢いている妖鬼を次々と切り刻んでいく。くるりと身体が回転する度に、ゆったりとした冷の袖が広がって、まるで演舞のようですらある。
その光景は、常にとっては二度目に見る素晴らしい剣術であった。
ふいに、常のいる所を見た冷が叫んだ。
「危ない、
冷が常に向かって剣を投げた。
「うわっ!」
剣は常の頬の横を飛んでいった。頬から一寸もないほど近い距離だった。常の顔に風が当たり、まもなく竹に突き刺さる鋭い音がした。
常には訳も分からずその場に固まっていたが、剣の刺さった先を見ると妖鬼が貫かれていた。
妖鬼が消えるのを確認した冷が腕を一振りすると、剣はひとりでに冷のほうに戻っていった。
冷の妖鬼討伐は半刻もしないうちに一区切りついたようで、数十ほどの妖鬼を討伐して、冷は常の立っている場所に戻ってきた。
「この付近は討伐終了しましたよ」
冷は沢山の妖鬼を討伐したにもかかわらず、息一つ乱れることなくその場に立っている。
「すごい…… !」
「一応
冷は自慢する風でもなく、間髪入れずに竹林の先に向かって歩き始めた。
常は、秋が冷の剣術の腕を褒めていたことを思い出したが、実際にその剣術の上手さや美しさを目の当たりにしたことで、常の冷に対する尊敬がさらに深まった。
「しかし少し離れるだけでも、妖鬼が君に向かってくるとは思いませんでした。
常の首に掛けられた、邪払いの玉の首飾りを見ながら冷はその言葉を呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます