第27話 迷い霧
「
実際に妖鬼を討伐する場合には、様々な事態が起こりうるからだ。
もちろん剣術だけでは妖鬼に対処できないことも時には発生する。そのため大会では各人の総合的な能力の向上を図るため、門下生だけでなく呪部の人間も何人か参加していたのである。
しかし、自身の能力に自信のない者であると、規則のない大会では狡いことをする者もいるのだという。
白虎・青龍・朱雀・玄武の四名はただでさえ目立ち、敬遠されがちである。大会には様々な勢力が参加する。中には、大人数で四神の名を冠した者の足止めをすれば彼らを大会上位に入らせないようにできると考える者もいる。
考えるだけならましだが、実際に邪魔をしたり失敗させようとしたりする者も出てきてしまうのだという。
「秋さ…… 師兄は邪魔されても無事なのかな…… ?」
「心配はしなくて良いとは思いますが……」
「 この大会、私は何か嫌な気配がするんですよね」
と言った。
「え…… 」
「ごめんなさい、不安にさせてしまいましたね。心配することはないですよ。白虎殿は強いですし、私もある程度の能力はありますから」
慌てて冷は笑顔を作った。
「うん。きっと師兄も無事だよね」
「はい」
二人は竹林を共に歩いていたが、辺りにはうっすらと霧が出てきた。妖鬼もあまり出てこない。微かに沈香のような匂いが漂っていて、竹林しかないのに、と
「
「……
常からの返答がない。辺りを見回すと、常の姿があったため冷は安堵する。
しかし、二人の周りの霧は急に濃くなり、お互いの姿がうっすらとしか見えなくなってしまった。
この霧は普通ではない。
冷は、はっと気がついて常に向かって叫んだ。
「
常からの答えはない。常は声がもうすでに聞こえない場所に行ってしまったようだった。
夢に落ちるように辺りは白くなり、自身の足下すらも薄くなっていく。
「冷さん…… ! 待って!」
常のほうも、ぼんやりと見える冷を追ったが、それさえも滲むように見えなくなってしまった。
常は何が起こっているのか分からずに困惑した。冷の口は動いていたため何かを話していたことは分かるが、その声すらも聞こえなかったのだ。
真っ白な紙に薄墨をこぼしたような世界の中で、近くに生えている竹だけがうっすらと見える。
こうして、二人は霧によってお互いの姿を見失ってしまったのだった。
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