第84話 砂のような終焉
「ここまでかな」
独り言を言う声もかすれている。雷は十年前の復讐相手を射貫いた。そして、頭上にある雷の陣は、
「刑罰のために作り上げた陣で、死ぬことになるとは」
「お兄さん!」
白い煙の壁がすっかり晴れてしまい、その先に少年が立っていた。
静かな水面のように凪いだ表情をしており、まなざしは強い意思を持っている。
「……本当に成長したね」
「……お兄さん」
「君、それ以上はやめておきなさい。暁片の炎が変質している。その炎に身が灼かれてしまうよ。いや、もう灼かれているのかな?」
火花の爆ぜるような音が、
「僕のことは良い。それよりも、お兄さんが一人で死のうとしているのが嫌なんだ」
「別に私のことを構う必要はない」
「僕は、お兄さんがどういう人なのか知りたい。どんなことを経験し、その目で何を見てその頭で何を考えてそこにいるのか。だから、もうすぐ死んでしまうとしても、少しでも多く一緒に居たいんだ」
「分からない。私は
「それでも、僕に巴蛇の陣を教えてくれた。外に出られたのは、お兄さんのおかげなんだ」
崩れるようにして、季の身体が地面へと倒れる。
「師父!」
その光景を後ろで見ていた
「……ごめんね、
「そのようなこと、言わないでください! 私は、師父が生きていてくださって、心から嬉しかったのです。あなたは変わってしまったとおっしゃいますが、私はあなたのことを今も尊敬しています。それに、私が……昔の師父を、あなたが染めたこの黒い衣と共に、ずっと覚えています」
「そう、か。
その言葉を聞いた
今まで秋が行ってきた、若気の至りと言われて理解されなかったことが、師によるたった一言で報われた。
だが、取った季の手が、砂のようにさらさらと空気に溶けていく。巴蛇の陣で一度は吹き飛ばされた香炉の煙も出てきて、段々と辺りが白くなっていく。
「え、お兄さん……!?」
「私は跡形もなく消えてしまうだろう。
いたずらっ子のような微笑みを残して、季の身体は風に消えていく。そして、季の身体の全てが消える瞬間に、香炉の白い煙により季と三人は分断された。
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