第67話 暁片の場所
ねえ、と
「実はね、暁片がどこにあるか、私には大体の見当がついているんだ」
「そうなの?」
「触ってもいいかい?」
「……え?」
「君の身体だよ」
「いいけど、どうして?」
「君の身体の中に暁片があると思うんだ」
季は常の耳元でささやいて、交襟の間に手を入れる。手が驚くほど冷たくて、常はぎゅっと目をつむった。
「私が思うに、君の先祖は王を殺した臣下、
季が言葉を続ける。
「ならば暁片はどうやって子孫へと受け渡されるのか? 君がここで閉じ込められていたときには、それらしき剣はなかった。形がないのだとしたら、君の身体の中に溶け込んでいるのではないか? それならば、君を監視していた者による妖鬼に襲われやすいという報告にも説明がつくんだ」
青年が、常の鎖骨の間から臍に向かって、縦に一本の線を描くように指で触れていく。
「あ、ここだね」
胴の中心で季が人差し指を小さく回すと、小さな陣が現れた。
「痛いと思うけど、少し我慢してね」
その瞬間、常の体に尋常ではない痛みが走った。赤、青、黒、黄、白。様々な色が、混ざり合って閃光のように視界に現れる。常には王の声の幻聴さえも聞こえてくる。
常の胸部に現れた陣が赤く光りだし、青銅の柄部分がゆっくりと姿を現した。
「おにい、さん…………いたい、よ」
常の目からは涙が溢れてきて、動物の唸り声のような叫びが口から発せられる。ぼやけた視界には二つの赤い瞳だけがはっきりと見えた。季の赤い瞳は、瞬く間に火となり、燃える建物と、遠くで座る王の形に変化した。
「…………王が見える」
視界が二重に揺れる。果たして見えている視界は自分のものなのか
「暁片の力で過去を見ているのかい? それとも、痛くて幻覚が見えているのかな? どちらにせよ面白いね」
水の中のように、あるいは耳を塞いでしまったかのように、とても遠くから季の声が聞こえていた。常の身体からは、すでに剣の刃部分の半分ほどが出てきていた。常の目の焦点は合わず、涙が溢れて止まらない。
「……王よ」
混ざり合う視界の中で、遠くに座る王を呼ぶと、王が笑ったように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます