第67話 暁片の場所

 ねえ、と季宗晨ジー・ゾンチェン常子远チャン・ズーユエンに滑らかな声で呼びかけた。


「実はね、暁片がどこにあるか、私には大体の見当がついているんだ」

「そうなの?」


 季宗晨ジー・ゾンチェンが微笑んで頷いた。紙の束を置き、常子远チャン・ズーユエンに顔を近づける。


「触ってもいいかい?」

「……え?」

「君の身体だよ」


 季宗晨ジー・ゾンチェンは急に身を乗り出した。


「いいけど、どうして?」

「君の身体の中に暁片があると思うんだ」


 季は常の耳元でささやいて、交襟の間に手を入れる。手が驚くほど冷たくて、常はぎゅっと目をつむった。


「私が思うに、君の先祖は王を殺した臣下、姬陶ジー・タオだ。皆殺しになったはずだが、どうにかして子孫は生き延びたのだろうね。……暁片は姬陶ジー・タオに下賜されたものだ。だから、その子孫だけが暁片を導くことができる」


 季が言葉を続ける。


「ならば暁片はどうやって子孫へと受け渡されるのか? 君がここで閉じ込められていたときには、それらしき剣はなかった。形がないのだとしたら、君の身体の中に溶け込んでいるのではないか? それならば、君を監視していた者による妖鬼に襲われやすいという報告にも説明がつくんだ」


 青年が、常の鎖骨の間から臍に向かって、縦に一本の線を描くように指で触れていく。


「あ、ここだね」


 胴の中心で季が人差し指を小さく回すと、小さな陣が現れた。


「痛いと思うけど、少し我慢してね」


 その瞬間、常の体に尋常ではない痛みが走った。赤、青、黒、黄、白。様々な色が、混ざり合って閃光のように視界に現れる。常には王の声の幻聴さえも聞こえてくる。


 常の胸部に現れた陣が赤く光りだし、青銅の柄部分がゆっくりと姿を現した。


「おにい、さん…………いたい、よ」


 常の目からは涙が溢れてきて、動物の唸り声のような叫びが口から発せられる。ぼやけた視界には二つの赤い瞳だけがはっきりと見えた。季の赤い瞳は、瞬く間に火となり、燃える建物と、遠くで座る王の形に変化した。


「…………王が見える」


 視界が二重に揺れる。果たして見えている視界は自分のものなのか姬陶ジー・タオのものなのか、常にはすでに分からなかった。


「暁片の力で過去を見ているのかい? それとも、痛くて幻覚が見えているのかな? どちらにせよ面白いね」


 水の中のように、あるいは耳を塞いでしまったかのように、とても遠くから季の声が聞こえていた。常の身体からは、すでに剣の刃部分の半分ほどが出てきていた。常の目の焦点は合わず、涙が溢れて止まらない。


「……王よ」


 混ざり合う視界の中で、遠くに座る王を呼ぶと、王が笑ったように見えた。

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