第66話 始まりの地
赤黒い陣が闇に溶けるように消える。
「ねえ、お兄さん。玄武さんはどうなったの?」
「香で眠らせているだけだよ。しばらく経てば目を覚ますだろう」
「よかった」
「お兄さんは僕を助けに来た…………わけじゃなさそうだね」
「助ける……玄郭の牢から君を助けるってことかい? 残念ながら、そのためじゃない。わざわざ天狗の移動陣を使って、君が育った常院楼の地下に来る理由がないよ。全ては始まりに回帰する。暁片を手に入れるために、私は君に会いに来たんだ」
「お兄さんも暁片が欲しいの?」
「私じゃないよ。私は命じられているだけ」
常は暁片を欲しがる人間に慣れてしまって、驚くこともなく尋ねた。
「誰にそう命じられたの?」
「……そこは伏せておこうかな。
季が地面に座り話を始めたため、常もつられて座った。
常はその
「お兄さんは、僕がどうやって暁片を導くか分かったの?」
「先ほど、玄郭の人間を眠らせてきたときに、暁片についてまとめられている書を見つけたんだ。暁片について調べている君のために、
そう言いながら、季がどこからか紙を数枚取り出した。
「玄郭の政主さんが?」
そう聞き返してから、常は
「この紙によると、暁片というのは王が臣下に賜った短い剣だね。青銅でできていて、柄の部分には太陽をかたどった文様が施されているという。私が思うに、この文様はまじないだ。今の時代にはもう形だけになってしまって廃れているものだが、言い伝えにある事物――例えば神や瑞獣をかたどり、気を送ることにより、それぞれの文様に応じた効力を発揮するんだ。私の使う陣もこれを応用したものでね…………ごめん、暁片の話から逸れそうになったね」
はっと我に返った季は、照れたのか咳払いをした。
「いいよ、お兄さんの話聞きたい」
「そう。ありがとう。でも時間がないから暁片の話をしよう。この書物によると、暁片は王に作られたが、王を殺すための道具となったらしい。聡明だった王は不作や天災によりたくさんの民が死んで、狂ってしまった。政から逃げるように女性や酒に溺れるようになった。そして自分を諫めた自分の部下を、次々に天への贄としたようだね。自分に都合の悪い人間も消せるし、この地も鎮められる。王に反感を覚えた部下の一人が、王を殺したというのが結末らしいね」
紙に書かれた文章を読み終えた季は、顔を上げて常を見つめて、それから言葉を続けた。
「でもこの王、狂ってしまったにしては、筋が通った考え方をしているように見えるけれどね。嫌な部下を贄として消すのは、ある意味では合理的だ」
常の家族を贄としたという
「合理的か……。うん、王は狂ったように見えなかった気がする」
「……見えなかった? 君はその王を見たことがあるのかい?」
常は、炎の中で安らかな顔をしながら死んでいる王を思い出していた。だが、それは死んだ後の王であり、その次に見た
「本当なのかは分からないけど、見たよ」
「そうなんだね。君はやはり、暁片を導く子なのだろう」
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