第11話 手を引かれて
土を踏み固めた階段をのぼると、地下の暗さは嘘のように辺りは明るかった。
少年と
あの動く死体は何だったのだろうか、と少年は
全てが夢みたいだ。外の世界は眩しくて、思ったよりも静かで、別段綺麗という訳でもなかった。綺麗ではなくても、少年にとっては初めて見るものばかりだ。通路の脇にきらきらと透明なものが流れている。
「これが”水”かな」
少年が周りを見わたすのを止めて前を見ると、
「……」
常院楼に人の気配が戻りつつある。先程逃げ惑っていた人々は、轟音に少々恐れつつも元通りになっていた。
死体の赤黒い体液にまみれた二人は、
立っている人間の顔を少年が見つめると、目が合った途端に皆小さな悲鳴を上げた。少年は数回瞬きをして、秋に問いかけた。
「僕たち、怖がられてる?」
「……私たちは死体の血に塗れているからな。やはり臭うのだろう」
すでに秋は死体の体液の生臭さには慣れてしまい、堂々と通路の真ん中を歩いていく。
「うわ、もしかして”黒衣の白虎”じゃないか?」
「噂通りだな。妖鬼を斬り刻み、血を浴びたのだろう」
人々に怖がられている理由は死体の体液の臭さのせいだけではなく、
道の脇にある水路を頼りにして二人が歩いて行くと、皆で酒を飲んでいた大広間にたどり着いた。
「
大広間の入り口に
だが、赤黒い液体に塗れた秋と、秋に手を引かれている見知らぬ少年が目に入った途端、表情が固まった。秋の身に”何か”があったことを察したのだ。
「……白虎殿?」
「……もしかして、常院楼に流れている噂は本当だったのですか? 」
その言葉に、秋は頷いた。
「ああ。お前の言った通りのことが起こっている。いや、それ以上かもしれないな」
「
冷が制止するのも構わず、秋は進む。そして、
「城歴李氏の主、
「な、何を急に!」
「もう一度聞こう。お前たちは、この少年を地下に閉じ込めていたのではないか?」
「いや、そんなことは! 私は知らない!! 何も知らないのだ!」
「…… これはどう説明する?」
一向に認めようとしない
「ひっ……!?」
落ちたものを見て、
それは、秋が切り刻んだ死体たちの指の一部だった。既に乾ききって、黒く干からびたようになってしまっている。指についている爪だけが、妙に人間だった名残のように、生々しく感じられる。
幸い、指先がひとりでに動きだすようなことはなかったため、更なる阿鼻叫喚は起きなかった。
「お前たちは死体を動かす研究をしていた、違うか?」
秋は、一層低い声で
「白虎殿、どういうことですか! 動く死体とは禁じられた術のはずでは…… !?」
大広間の入り口から慌てて歩いてきた冷が口を挟んだ。ちらりと秋が振り返り、髪をまとめている白い布が揺れた。
「それは本人に説明してもらう。観念して話せ」
秋が鞘に剣を仕舞ってから、秋と冷は
水の流れる音以外は静かな大広間。一刻が過ぎたかのような長い静寂ののち、
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