第41話 雪冰一条
「今見たものは何だったのか……」
風に揺れる木々は、まさしく玉剣山の景色であった。剣の妖が言ったとおり、瞬きの間ほどの時間しか流れていないらしく、遠くで妖鬼の
立ち上がろうとすると背中が痛いが、動けないほどではない。口元に付いた血を袖で雑に拭い、周りを見ながらゆっくりと立ち上がった。
妖鬼の首のいる方向に向かい、折れた剣を手に走り出す。
木々を渡り、風に乗り、妖鬼の
妖鬼の
各勢力の
「白虎殿が戻ってこられたぞ! 陣を重ねて妖鬼の
陣を張っている呪部の誰かが叫んだ。その声に応えて、妖鬼の
「剣よ、次の一振りで終わらせよう」
そして、落ちる前に空中で“
剣で妖鬼に触れる瞬間、折れた剣の大きさが何倍にもなって胴体を一刀両断する。
「なんだ今のは……!? 妖鬼の
各勢力の門下生達は、今戦っていた妖鬼の群れが目の前でふっと消えてしまったのであたりを見回している。
秋が着地をして、妖鬼の
まもなくして、ずり落ちてきた妖鬼の
土埃が舞い上がり、秋は顔に付いた黒い体液を袖で拭い、咳を一つした。
「やった! 妖鬼の
呪部や門下生たちは急に元気になって喜んだ。妖鬼の
「妖鬼の
皆が喜んでいる中、秋は妖鬼の首に近づき、すぐに調べ始める。どろりと妖鬼の首の大部分が溶けて、胴を二つに分断された死体が露になった。木を超えるほどの大きさがあった体躯は、みるみるうちに背丈は小さくなり、干からびた人間の大きさになっていた。
「まさか……人が人を喰っていたとは」
人の死体が元であるならば、人が人を喰らうことで育った存在であったということだ。
死体をくまなく調べていた秋は、死体の着ている深衣の前に何かが張ってあるのに気付いた。
「この霊符は…… 人寄せのまじないか? ならば、これは誰かが仕組んだことか…………」
霊符をはがしてしばらく見ていたが、秋はそれほど霊符に詳しくないため、誰かに聞くために折れた剣と共に布につつんでしまった。
雨と雷は止み、雲の間から陽光が差し込んできた。秋はその眩しさに目を細める。
「白虎殿、冷師兄が…… 」
雪雲閣の門下生の一人が駆け寄ってきた。
「すぐに向かう。この死体を調べるよう、儀仙堂に伝えてほしい」
秋が急いで
「白虎殿、すみません…… 。お力になれずに…… 」
冷の様子を見て、秋は内心安堵した。目の前の師弟は、身体は強いがそれ以上に無理をしてしまうことが多い。
「いや、無事が一番だ。休め」
秋は本心のままにそう言ったが、冷は悔しそうに唇を噛んだ。妖鬼の首を倒すための力になれなかったことを悔いている様子で、今にも泣き出してしまいそうなくらい顔を赤くしている。
「妖鬼の首の正体は
ぱっと顔を上げた冷が、切実な表情をして聞いた。
「
「そうですか、それは、良かった……」
その返答で安心したのか、冷は眠りに落ちた。
その様子を見て、秋はふっと息をつく。そして、何かを考えごとをしながら、しばらく冷の寝顔を眺めていた。
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