第53話 来訪者ありて
それから五日ほどたった頃、軒車に乗り
明黄色の深衣を着て、玉の髪飾りを着けた少女が軒車から下りてくる。
そして
「今回私がここに来たのは、あなたと話をするためなのです。書簡を届けるというのは口実にすぎません」
園林にある亭の内部に、
「僕と?」
「ええ。…… それで、話したい内容なのですが、兄上のことについてです」
「
常の指がぴくりと動いた。
「はい。兄は
「
「友である貴方を信じるべきなのか、それとも家訓を信じるべきか……」
「そして叔父上――
儀仙堂で
だが、今こうして二人で話をしてみると、決して人の影に隠れるような人間ではないのだろうと分かる。
「……やっぱり暁片のせいで先祖が亡くなったんだね」
「それは事実のようです。家訓にも、暁片を持つ者を殺せと書いてありますから」
「しかし私は、昔のことは昔、今は今だと思うのですよ。あなたが私の先祖を殺したわけではない。あなたはただ、暁片を導く存在であるだけで、あなたに罪はないのですから」
そうは言われたが、
「でも、怖いんだ。僕が人を殺す道具を導くなんて」
「ええ。私でも怖いと思います。……人はそれも天命だというけれど、天命だけじゃない。叔父上が家訓に背きあなたを生かすのは、何か思惑があるからです」
「
「すみません、思わず手を握ってしまいました。あなたの手が震えていたから。……幼い頃によく兄が、夜の静けさが怖いときにこうしてくれたので」
遠い過去を懐かしむように、
「見えなくとも、どこかに人の意思は関わっているのです。何かを変えたいならば、行動を起こさないと」
「
「いえ、私が戦います」
剣の名は“月仙”、
「私があなたを守ります、
じりじりと寄ってくる刺客たちから目を離さずに、
「そんな! 君が戦うなんて!」
「問題ありませんよ。じつは私、兄上よりも剣が得意なんです」
刺客の一人が、その言葉が終わる前に剣を突き出してきたため、
刺客の体勢が崩れたところを、剣をくるりと回すようにして斬る。これは“皓皓雲月“、
そして、地面に倒れた刺客に対し、間髪いれずに紙でできた拘束の霊符を貼り付けた。
その
「死ね!」
刺客が剣を突き出してきたが、しかし、その剣は
「うまくかかりましたね」
そう微笑んだ
「よし、こちらは終わりました。儀仙堂(うち)の門下に判部へと連行してもらいますね」
儀仙堂の見張りに刺客たちの身柄を引き渡し、二人は蔵書殿へと戻った。
◆
蔵書殿に着くと、急いで
「すまない、黄龍殿からの書簡が私にも届いて、刺客に気づくのが遅れた」
「
「感謝する。…… 何はともあれ、二人とも無事でよかった」
「お久しぶりです、白虎殿」
二人の様子を見て、常は二人の顔を交互に見た。
「二人は前に会ったことあるの?」
「はい、何度か。長く話すのはこれが初めてですけれど」
「
「折れた剣? これを何故、
「この剣自身が
「剣って意思があるんだ。師兄、ありがとう」
そう言って剣を受け取ろうとして、折れた剣に触れた、そのとき。
辺り一面の炎が常の眼前に広がった。
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